映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【その15】
【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、第1作が公開されました。
バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。
【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/
【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌15』
2004年8月21日公開。
- 朝原雄三監督の2作目です。
朝原監督とシリーズ全体を考えた時に、「作品の傾向や方向性は、一つだけにならない方が良い。『はじけた話の後は、落ち着いた話』というように、緩急をつけた方が良いのではないか?」と普段から話していました。
- 前作『14』はミュージカルシーンや「よさこい祭り」がある派手なお話で、次の作品の『16』もイージス艦が出てきたり、にぎやかな作品ですね。
「1作ずつが違う作品」という考え方で作品を積み重ねてきたので、許容範囲が大きくなり「陰と陽」の両方の表現ができるシリーズになっていたのではないでしょうか。お客様からは、「ドタバタの話の方が好き!」「おだやかな話の方が映画としての楽しさがある!」と両方の感想を頂きましたから、それぞれの傾向を楽しんで頂いていているのではないかと思います。
- 江角マキコさん演ずる薫は、経営コンサルタントですね。
薫のモデルにあたる方が直接いたわけではありませんが、作品の準備をしている頃、このシリーズを製作していた松竹にも「人事評価制度」が導入されました。脚本のお二方は社員ではありませんが、スタッフの中には監督や私の他にも何人か松竹の社員がいますから、雑談から会社に起きていることは耳にされることが多く、自然と今回の話になったように思います。
鈴木建設を経営コンサルタントが分析
- いまだに世間全体でも「人事評価の決定版」は存在しないですものね。
今は「人事評価制度」が採用されている会社が多いでしょうし、「早期退職制度」が実施されることも珍しくないですよね。『釣りバカ』シリーズにとっては会社生活も大切な要素の1つなので、その時々の世情が反映されていることが多いのです。
- 女性が仕事のキャリアと個人としての思考の間で悩みがちなところも同じですね。
20年近く前の映画なんですけどね…。「人が人を評価する難しさ」「だれもが満足するリストラはあり得るのか」「働くということ」と、大きく取り上げられるようになってきたころでした。
- スーさんも常に会社の行く末を模索しています。
スーさんは、重役たちにもよく「君たちはどうしたいんですか!」と、常に問いかけますからね。三國さん御自身も、経済誌を読まれたり、深く考えられて、「経営者としてあるべき姿」を考え続けているスーさんを作り上げていらしたのではないかと思います。
人事評価制度がはじまった!
- 今回は、小津安二郎監督の映画『麥秋』がモチーフに使われています。
小津安二郎監督は、朝原監督の大先輩です。松竹映画の礎を築かれたお一人で、多くの名作を作られてきました。『麥秋』もその中の1本です。今回はこの映画がモチーフになっていて、脚本の変更もほとんどありませんでした。
- 秋田ロケの風景も素晴らしいですね。
『麥秋』の最後に、北鎌倉に住んでいる原節子さんが、秋田に赴任する男性のもとへ嫁ぐ設定であることもあって、ロケ地が選ばれました。決定は『14』の仕上げをしている頃です。秋田の大切なお祭り「竿燈まつり」は夏で、撮影をする4月5月の頃には終わっていますので、メインスタッフだけで先に実景の撮影に行きました。エンドロールの背景となっている部分です。
ハマちゃんと薫は秋田新幹線で出会う
- 秋田はいかがでしたか。
今回も実行委員会の方々が熱心に協力して下さいましたし、画になる場所が沢山ありロケハンから順調でした。ある日、港で釣りのシーンの相談をしていると、立ち会ってくれていたおじいちゃんの船頭さんが「◆%△#?%◎&@※!アハハハハ!」と言ってくれました。参考になるように助け舟になる意見を出してくれたようです。
- 内容は?
何を言ってるのか、「アハハハ」以外全くわかりませんでした。実行委員会の方に内容を伺ったらアドバイスだったのです。とても親切な方だったので!それをロケハンから帰って脚本の御二方にお話したら、エピソードとして採用されました。
- なるほど!港のシーンですね。
ハマちゃんが船頭さんが言ったことがわからなくて、「今、なんて言ったの?」と筧さん演ずる哲夫に質問している場面。あれは本当にあった話が元ネタなんです。
秋田ロケにて
- その他は順調でしたか。
男鹿市にある「男鹿水族館」は、ロケハンの頃はまだ建設中でした。ロケの頃には出来上がっていると伺いましたので、玄関前で「開館セレモニー」を撮影することにして、準備を進めていました。でも撮影1か月くらい前になっても、まだ出来上がりません…。「これは間に合わないな」ということで、撮影の計画を立て直しました。
- どうされたのですか。
出来上がっていたエントランスで、式典が行われていることになりました。晴れているのに、本当はおかしいんですけどね。他のシーンも、一部の水槽など出来上がっている場所だけで撮影しました。そもそもまだ工事中の施設ですからね。大勢が出入りしたので心配でしたが、出演者もスタッフもケガがなくて本当に良かったです。ちなみに、7月の開館には間に合ったそうです!
- 結婚式の旧家も素敵ですね。
坂の上にある趣のあるお宅をお借りしました。林の中だったので、本当に美しい場所でした。
天気待ちをしている時には、このお宅の前で縄跳びをしたり、各部対抗で徒競走したり、つかの間の休み時間を過ごしたりしました。
薫と哲夫の結婚式
- 中年に差し掛かった大人の恋愛も絡めて評価の高い作品ですね。
この作品は今でも人気がある作品の1つです。朝原監督はこの作品で文化庁が選ぶ「芸術選奨新人賞」を受賞しました。コメディかつシリーズ物で公の賞を受賞するのは珍しいことですが、この作品とシリーズの新たな良さを認めて頂けたんでしょうね。
- シリーズの幅広さを示すことができたのですね!
「ドタバタ喜劇」の時も「落ち着いた群像喜劇」の時も、映画を楽しんで下さるお客様がたくさんいらっしゃる、ということは、いつになっても本当にうれしいことです!
〈その16に続く〉
映画『釣りバカ日誌』シリーズ
商品 (DVD・DVD―BOX)
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