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映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【その14】

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【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、第1作が公開されました。
バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。

【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/

【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌14』
2003年9月20日公開。

- 朝原雄三監督のシリーズ1本目の作品です。
前作までの本木克英監督から、朝原雄三監督に代わりました。二人は大船撮影所に同期入社しています。本木さんは助監督時代にシリーズに参加したことがありましたが、朝原さんは山田洋次監督の助監督を務めてから、映画『サラリーマン専科』シリーズなどのメガホンを取ってきた方なので、シリーズへの参加自体が初めてでした。

– スタッフの方々も変わられたとか。
メインスタッフのほとんどが30代に若返り、皆張り切って高知のロケハンに出かけました。ただ、なかなか物語が固まりません。ゲストの三宅裕司さんの役柄も、学校の先生、リストラで会社を辞めて花屋を始める元サラリーマン、など二転三転。4月初旬にクランクインの予定でしたが、2月末でも台本がありませんでした。まあ、なかなか定まらないのは、このシリーズでは珍しくないことですが。ただその後、シリーズ最大のピンチが訪れました。

- なにごとでしょうか!
3月頭に西田さんが心筋梗塞で倒れ、入院されたのです。「主役がクランクイン1ヶ月前に倒れる」という大事件。医師の皆さんが必死に御対応され、危機的状況は脱したものの、仕事復帰は検査結果次第、ということになりました。

- 検査は、すぐにわかるものなのですか。
3週間後でした。その間準備は続けていたのですが、生きた心地がしませんでした…。そして結果が出ると、担当医の先生が「驚異的です!」と仰るほどの回復力で、4月後半に撮影できることになりました。

- 2ヶ月経たずに、撮影が始まったのですね。
普通はあり得ないことです。西田さんの御体調もそうですが、三國さん、ゲストの高島礼子さん、三宅裕司さん、鈴木建設の重役の皆さん、など出演の方々はお忙しい方ばかり。そしてセットを組む東映撮影所も他の作品が沢山入っていましたので、撮影中止になってもおかしくない状態でした。でも皆さんが「西田さんのためなら」、「『釣りバカ』のためなら」と骨を折って下さって、4月26日にクランクインすることができました。

- 西田さんが撮影に戻られた時はいかがでしたか。
「浜崎家」のシーンからでしたが、心からホッとしました。その後も撮影が進むにつれて、ドンドンお元気になっていくのを目の当たりにしました。ホントにすごい方ですよね。

高知ロケにて

- 監督が代わられたことに関しては、スムーズだったのでしょうか。
撮影が終わった時には、三國さん西田さんは「次も朝原さんが撮るなら、また出ます」と仰ってくださる位、絶大な信頼を置かれるようになったのですが、はじめからそうだったわけではありません。

- 監督の個性の違いでしょうか。
今までの栗山監督や本木監督は、自由に演じる西田さん三國さんから面白いところを引き出していく感じでしたが、朝原さんは「シナリオにそって、きっちり撮影したい」というタイプでした。もちろん、どちらが正しいということはなくて、スタイルの違いです。この作品の時、朝原さんは、西田さん三國さんに対して「こうして頂きたいです」という演出の仕方をしていました。これまでと全然違うので、御二方は最初、相当ストレスがたまったのではないでしょうか。

- 進め方の違いですか。
それと今もそうですが、朝原さんはカットをかけてOKだった時、「まあ良いでしょう」と言います。本人は、あくまで「褒め言葉」のつもりで言っているそうです。でも、言われた方は「まあ良い?ん?まあ、なの?」となってしまいがちでした。

- 「褒め言葉」なんですね。
『サラリーマン専科』で監督と組んでいた三宅裕司さんは、既に信頼関係が出来ていて朝原さんのことを良くわかっていらして、「監督の「まあ良いでしょう」は、「とっても良い」ってことだからね!」と高島礼子さんに解説してくださっていました。お二人は柏島ロケもあり、地方での出番が多かったのです。

- 物語の重要な要素が柏島です。
話の内容は二転三転四転したのですが、要となる場所が「柏島」であることは一貫して変わりませんでした。脚本担当のお一人である朝間義隆さんが、柏島の橋から海に飛び込む子供たちの姿をテレビ番組で見て感銘を受けて、物語の舞台に早くから据えていましたので。

- 子供たちは気軽に飛び込んでいますね。
海まで高さが5、6メートルあるし、水が澄んでいる分海底の岩がクッキリ見えて、我々にとっては正直怖く感じます。でも島では通過儀礼的に、ある程度の年齢になると皆飛び込むそうです。撮影の時は、島にある小学校の全員に協力して頂いたんですよ。

柏島の橋の上で

- 「よさこい祭り」のシーンも圧巻です。
「よさこい祭りは是非取り上げて頂きたい」という実行委員会の御要望で、お祭りを再現することになりました。踊り子チーム3チームで200人、エキストラ1,000人、という全面協力でお祭りを再現。シリーズ史上最大規模の撮影でした。

- 撮影もそうですが、準備も大変そうですね。
音楽と踊りがあり、撮影機材でクレーンを使うことになりましたので、綿密にカット割りをしました。さらに台本ではお遍路姿のハマちゃんスーさんが見物するだけだったのですが、「ハマちゃんがなぜか、お祭りに参加している方が面白い」ということで、お囃子のトラックの上で踊るように内容が変わりました。事前にカット割りをして、夜中まで綿密に打ち合わせを重ねました。

- 無事に撮影できましたか。
朝から15時まで道路を完全封鎖すことになりましたので、時間内に終わらせなければならないし、天候も不安定だったし人出も多くてハラハラし通しでしたが、西田さんが登場した途端、エキストラの皆さんの大歓声が自然に巻きおこり、熱気ある「よさこい踊り」のシーンになりました。綿密に計画しただけあって、予定より早くたくさんのカットを撮影できて大成功でした。

「よさこい祭り」で歌い踊るハマちゃん

- ハマちゃんと岩田課長が歌うバーのシーンは、ミュージカルのようです。
台本では「バーで二人が語り合う」シーンだったのですが、高知ロケ期間中の夜、実際に西田さんが三宅さんと飲んでいる席で思いついたのが発端です。普通だったら予算も日数もないので「難しいです」とお詫びするところです。でも、いろいろな状況を考えると「これは、やらなければならない」と思い、監督に相談。翌日、美術デザイナーに準備のため急遽帰京してもらいました。しかも音楽があるので、セットを建てないと撮影不可能です。

- 予定になかったセットを建てないければならないということですか。
東映撮影所さんには、すでに西田さんの御体調のことでセットの日程変更をむりやりお願いしていました。そして今、重ねての無理難題…。おそるおそる撮影所の生田所長に相談の電話をしました。

- ドキドキしますね。
生田さんは「ちょっと時間をくれる?」とおっしゃいました。そして1週間位すると、すでにお借りしていたスタジオと別のスタジオを、このバーのシーンのセット撮影用に用意してくださいました。後で伺ったところ、もう決まっていた仕事を変更して頂くように、相手先に無理を重ねて御願いしてくださっていたのでした。有難くて涙がでました。

- スタッフの方々も大変でしたね。
朝原監督も音楽が大好きなので、美術と演出スタッフを中心に時間がほとんどない中、死に物狂いで準備しました。あのブルースブラザース風のとても楽しいシーンは、大船撮影所の頃から培われてきたチームワークと、東映撮影所のみなさんの御尽力に支えられて誕生したのです。

トロンボーンを吹いているのは…

- ところで三宅裕司さん演じる「岩田」課長のお名前の由来はもしかして。
そうなんです。脚本の山田洋次さんと朝間義隆さんは、遊び心からたまにスタッフの名前を登場人物の名前に付けることがあります。それが今回は私だったようです。照れくさいですねえ。

- この作品もいろいろなことがありましたね。
朝原さんと飲みに行くと、いまだに「岩田さんは『釣りバカ日誌14』の時、三國さんと西田さんに演出をつけるなんて!と言ってた!」と言われます。そんな物言いをした記憶はないんだけどな…。あの時は「なんとか上手くいってほしい」と必死だったから、そんな感じに聞こえてしまったのでしょうかね?

- お互いに真剣だったからこそでしょう。
やり方は違っても、監督としての役割を果たそうとした朝原さんと、西田さん三國さんの『釣りバカ』に対する姿勢が、撮影を通して最終的に通じ合ったのではないか、と思います。そこで絶大な信頼関係が生まれました。計算して積み上げるのではなく、お互いの個性が反発を経て共鳴していくことで、予想できなかった化学反応が起こり、シリーズの新たな魅力が生まれたように思います!

- 1つ1つ難問を解決されていったように思います。
高知の方々の熱い支援と裏腹に、この作品のロケ撮影は本当にお天気に恵まれませんでした。3週間の高知滞在で、晴れたのは3日間だけ。お遍路のシーン以外、ほぼ曇天でした。「よさこい祭り」の時は撮影終了した後に雨でしたし、柏島では台風に直撃されましたから。

- お天気はコントロールできませんね。
もっと晴れた空を、新しくシリーズに臨む朝原監督にプレゼントしたかったのですが、こればっかりはね。どうにもなりませんでした。アハハハハ!でも、力がこもった盛りだくさんで賑やかな良い作品になりましたからね!

お遍路姿のハマちゃんとスーさん

〈その15に続く〉

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