映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【その6】
【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、
第1作が公開されました。バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。
【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/
【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌6』
1993年12月25日公開。同時上映『男はつらいよ 寅次郎の縁談』
- シリーズの中でも、人気作品ですね。
そうなんです。「社長とハマちゃんが入れ替わる話でしょ?釜石の。あの作品が1番好き」と言って下さる方も多くて。1行で作品の内容を説明できる映画になっていて、物語として、分かりやすいんだと思います。もともと、友人関係においては、立場が逆転している上に、社会的な立場も逆転するってことですからね。
- ありそうで、なかなか思いつかない話ですよね。
こんなバカげた発想をひらめいたのは、台本のできる前に、栗山監督が初めて釜石を訪れた時に、ロケ誘致の先陣を切っていた釜石市役所観光課の担当の方3人が3人とも、おっちょこちょいで面白過ぎる方々だったので、それを脚本の山田洋次さんに話したら、「勘違いの物語」を考えられたそうです。
- 今回は、途中で大きく脚本が変わることはなかったのでしょうか。
脚本の変更はなかったので、いつもよりは、準備の時間がありました。ですが、そもそもの前提で、「講演を依頼した側が、講演者の顔を知らない」って現実には、ないでしょう?お客さんがそこを気にしなくなる位に、物語に乗って頂かないといけないので、監督、西田さん三國さん、スタッフで議論した上で、台本にアドリブを加えて、思い切ってドタバタに振っています。終盤で、みち子さんから、ハマちゃんとスーさんは、悪気はなかったとしても、入れ替わっていたこと自体を怒られますが、当然ですよね。
講演会で大盛り上がり!
- 現実の釜石市の方々は怒っていなかったのですか
全然!当時、釜石市の方々は「この映画で、釜石の名前を全国区にしたい。日本地図で指を指せる様にしたい」と熱い意気込みを語っていて、ロケ撮影をとても後押しして下さいました。金銭を受け取る援助ではなく、ロケ地の選定や撮影を手伝って頂いたり、スタッフの宿泊場所や交通チケット、炊き出しなどを提供して頂いたり、というロケーション支援という形でのタイアップの形がこの作品から始まりました。
- 撮影中もお手伝いして下さったのですか。
ロケ先の選定だけではなく、撮影中も熱心に、現場にべったりとついて、手伝って頂きました!
- 撮影後にもロケ地を訪ねることはありますか?
2011年の東日本大震災で、あの時、一緒に撮影をしたり、打ち合わせをした美しい景色が、この映画に写っていた素晴らしい景色が、失われました。私は震災の2年後に、釜石に伺いましたが、街がすっかり変わってしまっていました。間口1間位の酒場が200軒くらいあった場所では、毎晩飲み歩いたのに、跡形もありませんでした。
本当に胸が痛みましたが、撮影を手伝ってくれた観光課の方々が、復興に向けて活動していて、元気な笑顔を見ることができた時、涙が後から後からあふれました。
- 映画の中には、残っていますものね。
当時の「釜石」の良さを広めたい、という地元の方々の熱意に、私たちも貢献しなければ!ということで、あえて劇中で何度も「釜石」と言っています。ハマちゃんの今回の宴会芸の歌でも、ずっと連呼してます。歌のタイトルは「KAMAISHI NO1.」ですからね。
- 宴会芸がレゲエになったのは、新機軸ですよね。
西田さんのアイディアです。ハマちゃんの宴会芸の内容が決まると、いつも、担当の助監督さん小道具さん衣装部さんが、「どうしたら、もっと面白くなるか、どうしたら、もっと西田さんが楽しく演技して頂けるか」を真剣に考えます。縮れ毛は小道具さんが、徹夜でいろいろと試行錯誤した結果、カツラは昆布を加工したもの、胸にはホタテ貝、と釜石ならではの内容になっています。スタッフは、使われていないものも含めて、山ほど宴会芸のために、材料を用意します。
さらに、現場で西田さんが歌ったレゲエに合わせて、後から、音楽のかしぶちさんが音楽をつけたことで、勢いのある楽しいシーンになりました。能力が高い人達が本気で遊ぶと、こんな面白いことになる!ということで、西田さんとスタッフの総力で出来上がったこの宴会芸も、すごく人気がありますね。
KAMAISHI NO1.
- スーさんと澄子(久野綾希子)が釣りに出かけるシーンは遠野ですね。
シリーズで、スーさんが初めて、ハマちゃんと別々に、渓流釣りをしたシーンです。
「日々プレッシャーに直面し続けている社長が、日常から解放されて、身分を隠し、優しく美しい女性と、つかの間、夢の様な時間を過ごす」場面なので、ロマンチックな雰囲気が景色に必要で、それには、遠野がピッタリだったんです。つまり「ローマの休日」の変型みたいなことですから。
-それで、釜石を離れているんですね。
ハマちゃんの過ごしている時間とスーさんの過ごしている時間が全く違う、という映画としての表現をするためには、どこで撮影するか、ということは、とても大切なことなのです。釜石市の方々も、その点を理解してくださって、本当に助かりました。もちろん、遠野市の観光の方々も万全のロケ体制を組んでくださいました。
スーさんの休日
- 結婚式のシーンが2回ありますね。
結婚式のシーンは、撮影する側も勿論、他のお客様への配慮という点で注意が必要ですが、貸して下さるホテルの御担当者の方には、大きな負担がかかります。撮影スタッフ側からの要望を聞きつつ、通常のお客様の御迷惑にならない日を考慮して、日程調整することからはじまり、撮影場所だけでなく、出演の方の控室の確保などなど、山のように作業があります。
- 撮影のための場所ではないですものね。
撮影がはじまると、「モーター音がするから、空調を切ってください」なんてことから、「BGMを止めてください」だとか、「貸してほしい物がある」など、これまた大忙しになります。最後のシーンの撮影では、横浜のインターコンチネンタルグランドホテル(現ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル)をお借りしたのですが、担当の阿部さんが、本当に献身的に対応して下さいました。
- 核になる方がいらっしゃった、ということですね。
翌日、同じ会場で結婚式があり、撮影で借りることができる時間は決まっていました。翌日の準備から逆算しているので、ギリギリの時間です。その終了時間の約束を違えてしまうと、日頃から働いている大勢のスタッフ全てに影響が出てしまいます。そのことは、事前に伺っていたので、この時間までに、と監督にもキャメラマンにも伝えていました。
- もしかして…。
撮影終了時間がギリギリに差し迫ってきた時、芝居の場所が急遽変わり、広い廊下側にキャメラが向くことになり、ライティングが一からやり直しになりました。その時間から始まると、約束の時間には、到底終わりません。阿部さんには本当に申し訳なかったのですが、相談しました。
- 板ばさみになってしまいますね。
阿部さんは、もうその頃には、色々なことを共に乗り越えて、すでに同志!という感じでした。まだ青年だったのですが、辞職覚悟で上司の方に掛け合って下さって、次の日の結婚式の準備スタッフを深夜まで残して頂き、何とか撮影時間を延ばしてもらえて、撮り終えることが出来ました。後で聞いたのですが、胸に本当に辞表を持っていたそうです。ありがたいことです。
- 1つのシーンの後ろにはそんなドラマがあるのですね。
阿部さんとは、本当に親しくお付き合いしました。後に、阿部さんがご結婚されたのですが、栗山監督と私も披露宴に伺ったんですよ。撮影したインターコンチネンタルホテルの宴にね。
結婚式のシーンの後ろにも、いろいろなドラマが…。
- 今回の三國さんは、運転手姿が印象的ですね。
三國さんは、前回で本当にシリーズへの御出演は、終了しようと思っていらしたとのことでした。元々「同じことはしたくない」「馴れ合ってはいけない」という方が、シリーズの人気が高まるにつれて、街で「スーさんだ!」「今日はハマちゃんいないの?」などど、声を掛けられることが増えて、そのことにも葛藤をお持ちだったようです。
- それまでのキャリアと真逆なことでいらしたのかもしれませんね。
最終的には、御出演いただけたのですが、今回のような立場逆転、かつ『ローマの休日』の変型のような、普段の人物が繰り広げる奇想天外な物語は、西田さん三國さんが揃った、『釣りバカ日誌』でしか、できないことだったと、今、振り返っても思っています。他に似ている映画はないですよね!
シブい運転手姿のスーさん
〈スペシャルに続く〉
映画『釣りバカ日誌』シリーズ
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