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映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【その5】

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【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、第1作が公開されました。
バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。

【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/

【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌5』
1992年12月26日公開。同時上映『男はつらいよ 寅次郎の青春』


- 今回から、ハマちゃんとみち子さん夫婦の子育ての様子が垣間見られる様になりましたね?
この作品は、ニューマドンナではなく、ハマちゃんのお母さんと息子「鯉太郎」が、お話の中心になっています。西田さん三國さんは御二方ともお忙しく、スケジュールに余裕がない中、ドラマの中で「赤ちゃんが重要な役割を担う」ということは、かなりの挑戦でもありました。何が起きるか危険との背中合わせ。大人の都合を押し付けて、撮影を続けたくても、お昼寝タイムなどもあり、無理やり言う事を聞かせるなんて、あり得ないことですから!

- どの様にして、鯉太郎役の赤ちゃんは選ばれたのでしょうか。
今回のお話は、いわば「鯉太郎の大冒険!」です。物語の中で大きな役割を担う、ということで、オーディションを行ない200人近くの中から、上野友君が選ばれました。

- 選ばれた決め手は、どこにあったのでしょうか。
普通の赤ちゃんは、お母さんから離れることを嫌がりますし、一人になると不安になってしまいます。それは当たり前なのですが、友君だけは、人見知りせず、お母さんから離れても、落ち着いていました。愛されて育っている、明るくお利口な坊やで、「この子しかない!」ということになりました。何より、かわいかったですしね。

大活躍の鯉太郎君

- 実に自然にお芝居をしている様に、見えますね。
演出部の助監督さんが一人、友君に、つきっきりになりました。一緒に遊んで信頼関係を築いていきつつ、お母さんと相談して、どうやったら、台本にあるシーンを上手く撮影できるか綿密に考えていきました。リハーサルは、人形で行ない、本番直前に本人登場、という形にしたり、お昼寝の時間を考えて撮影スケジュールを組みました。

- 御出演の皆さんも、鯉太郎君に対して、とても優しいお顔をされてますね。
大人だけの芝居と違って、テストは何回もできないし、本番で、大人の出演者としては「もう1度テイクを重ねたい」ところでも、「鯉ちゃんの芝居はGood! 仕方ないよね!」と、友君優先で、みんな納得。西田さん三國さん石田さん乙羽さんはじめ皆さん、とても温かく見守って下さっていました。

- 冒頭の防波堤でのハイハイや階段を上る姿にも驚きました。
防波堤は高さもあるので、画面に写っていない反対側に、スタッフが大勢控えていて、安全を最優先で、時間をかけて丁寧に撮影しました。その甲斐あって、画に力があるシーンになっていますよね。最後に鯉太郎が泣き出すのも絶妙なタイミングですし。でも、本音を言えば、今回、久しぶりに観て、「お母さん、よくこの撮影をOKしてくれたなあ」と、ドキドキしてしまいました。何事もなくて本当に良かった…。

高い堤防で、鯉太郎がハイハイしていることに気が付いて呆然とする3人

- 鯉太郎が、会社中を歩いて回るシーンでも、生き生きとしていますね。
映っていないフレームの外で、「友君、おいで~」と、助監督が、彼が大好きなヤクルトを持って誘導したり、階段での撮影に飽きない様、新しい遊びを教えるという形で演出したり、策を練ったということもありますが、何より彼自身が、存在感のある魅力的な出演者だったと思います。階段のシーンなんて、まさに友君まかせで、ヒヤヒヤでした!事細かに指示を出せないのに、大人の動きにちゃんと反応して、実に良い芝居をするんです。

- そして、ハマちゃんとスーさんは、お揃いのトランクスをはいていますね!
台本では「ハマちゃんが、鯉太郎を、会社中探し回る」だけだったのですが、西田さんのアドリブで、心配がつのるあまり、どんどん、ハマちゃんの髪型も服装も乱れていくことになりました。最終的には、ズボンまで脱げてしまう。なんと斬新な映画でしょうか!それを知った三國さんも、「御自分も!」と仰って、色違いでお揃いのトランクス姿を披露することになりました。

ハマちゃんとスーさんのトランクスは色違い!

- ロケは、無事に行われましたか?
いえいえ、今回もアクシデントがありました。お話の中で、左遷されたハマちゃんが単身赴任で、丹後半島に赴き、「スッポン」の養殖プロジェクトを担当するのですが、そのハマちゃんの下宿先を、スーさんみち子さん鯉太郎の3人が訪ねるシーンがあります。当然、友君も参加することなりました。人生初の旅行、初の新幹線!ですが、なんと、出発前日に、発熱して、行けなくなってしまったのです。

- 鯉太郎がいない状態に対しては、どの様な対処をされたのですか?
4人が再会する部屋の中を、窓側と窓に面していない側の2か所に分けて撮影しました。
窓側が写る部分はロケ先。反対側は、後から撮影所に作った、全く同じ部屋のセットです。窓側にキャメラを向けた時は、丹後半島の海が写りますが、反対側には映らないので、その部分は、ロケ先でなくても撮影できる!という苦肉の策です。

- 窓の近くには、ロケに行っていない鯉太郎を配置しないということですか?
友君がいないので、窓の外が写る時は、鯉太郎ナシの部分をロケで、窓が写らない側を撮影する時はセット、と分けて考えたのです。そして、セットで撮影する時には、ハマちゃんが鯉太郎をだっこして、窓側に行かない様にしています。さらに、三人がハマちゃんと再会する海辺のシーンは、丹後半島から戻った後に、近場の神奈川県荒崎で、ロケ撮影をしました。丹後の方々には申し訳なかったですが…。

- そして、今回のスーさんも、また違った雰囲気です。
スーさんは、「一代で建設会社を育て上げた創業者社長」であることは、変わりませんが、その作品毎に、違う人物であり、毎作品、別の人なのです。今回は、洗練されたり、文学的素養がある紳士ではなく、いつもより、少し野暮ったい感じの「裸一貫の叩きあげ」というムードを強調した人物像になっています。

はるばるスーさんたちが、ハマちゃんの単身赴任先にやってきた!

- 釣りのシーンは如何でしたか。
丹後半島の伊根で撮影しました。私は、製作担当(予算と撮影スケジュール管理)でしたから、この時は船には乗らず、港で、次の撮影スケジュールを書いて(作って)いました。
港にいると、いつもはそんなことはないのに、時間が経つにつれて、青ざめたスタッフが、どんどんどんどん帰ってくるのです。普段船酔いしないスタッフばかりなのに。日本海は、うねりが大きくて、船がかなり揺れたので、結局、出かけた半分以上が戻ってきて、水揚げされた魚の様に、港の堤防の上に転がっていました。それでも、夜はちゃんと宴会してましたけどね!

- そんな状態で、撮影できたのですか!?
役者さんの上から吊るすマイクを持つ録音助手さんがへたりこんで、セリフを録音できなくなったら、助監督さんがマイクを持ち、それを御覧になっていた三國さんが、助監督さんの代わりにカチンコを打ち、西田さんも照明部のレフ板(反射させて光を当てる照明部の機材)を持って下さる、と、お二方の御協力で、何とか無理やり撮影を終わらせることが出来ました。あんなに皆が船酔いしたのに、西田さん三國さん御二方と監督の三人だけは、元気いっぱいだったんですよ!

- 丹後半島のロケでは、スッポンの養殖場が出てきますね。
「スッポンは、繊細でストレスに弱い」と、いうことはロケ地を探している時に、取材をしている中で教えて頂きました。あんなに獰猛なのに、物音だったり光が差し込んだり、といったちょっとしたことがストレスの引き金になり、共食いをしてしまうそうです。意外性があって、実に面白いですよね、あんな怖そうな外見なのに!と、いうことで、監督に報告したところ、劇中に、その「スッポンの繊細さ」が採用されました。

- スッポンが飛び込むシーンがありますが…。
あれは小石を投げ入れて、飛んだ様に見せています。あんなことをさせたら、その場で共食いが始まって、大騒ぎですから!

丹後半島に赴任したハマちゃん。

〈その6に続く〉

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https://www.shochiku-home-enta.com/c/series-turibakanisshi

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