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映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【その2】

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【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、
第1作が公開されました。バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。

【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールはコチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/

【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌2』
1989年12月27日公開。同時上映『男はつらいよ ぼくの伯父さん』

- 『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』と上映された第1作は、大ヒットでした。
映画『男はつらいよ』シリーズは2本立で上映されいて、初期中期だと、ドリフターズの全員集合シリーズが同時上映作品だったこともあります。歴代の中でも、『釣りバカ日誌』は、お客様の反応が抜群に良かったと聞いて、皆で喜んでいました。

-2作目を作ると聞いた時にはどんなことを思われましたか。
この話の中で大切なモチーフである「スーさんは、実はハマちゃんが勤めている会社の社長である」ということを、第1作の最後でバラしているので、「いつ二人の関係が、周囲にバレるのか!」というハラハラドキドキのサスペンス感が無くなってしまっています。ハマちゃんは、高松に転勤して東京にはいないし。皆で、ストーリーの出だしはどうしたものか、とても悩みました。

- どういう解決方法にされたのでしょうか。
散々考えた末、栗山監督が「続ではなく2だよ!第1作目と第2作目は別の映画だから、第1作を前提にするのは止めよう!」と仰って、ごく普通にストーリーは何事もなくはじめることになりました。

- 別のお話になる、ということでしょうか?
登場人物や人間関係は、原作どおり第1作どおりですが、ハマちゃんとみち子さんが、高松から帰ってきた経緯は、描いていません。第2作は独立した映画であって、第1作の続編ではない、ということです。

浜崎家にて

- 随分思い切った発想ですね!その他は、トントン拍子に進んだのでしょうか。
2作目の出演依頼に対して、三國さんは、「1本だけのお約束でした。シリーズ物はやりません」とキッパリお断りされました。本来、「同じことをやりたくない」、という方なので。お客様の熱い支持があっての大ヒットだったこと、製作側の懸命な交渉があって、最終的には、無理やり受けて頂きました。シリーズ全作品において、衣裳、髪型、小道具などを変えて、同じキャラクターの一之助像は演じていらっしゃらない。「1本1本が別の映画である」、というスタンスを、貫かれていたと思います。

- ハマちゃんは変わらない感じですが、第1作目と第2作目のスーさんは、別人の様ですね。
三國さんはこの作品の前に、『利休』(89)に出演されています。千利休と豊臣秀吉の対立を描いた芸術性の高い重厚な映画です。、今回の作品の社長像に、もしかしたら、影響があったかもしれませんね。内面だけでなく、利休は僧籍にあるため、三國さん御自身も剃髪されていたので、この時のスーさんは、短髪なんです。1作目と外見も全く違います。

第1作と別人の様なスーさん

– 冒頭の東京湾での釣りでは、鯛を釣っています。
撮影では、テスト、本番、と同じことを繰り返すため、魚が弱ってくると、活きの良い魚に交換します。結果、1つのシーンで、1カット毎に1匹は同じ魚が必要になります。それに加えて、画面に登場するので、見栄えが良いものでなければなりません。担当する製作部や演出部は、条件にあう魚を複数用意することが、毎回、求められていて、各地で奮闘しました。

– 鯛にもいろいろな種類がありますね?
今回は真鯛です。天然物は、さくら色で、養殖物は黒っぽい色をしています。海での釣りなので、本来はさくら色の真鯛で撮影したいのですが、天然物をたくさん手に入れられる筈もなく、養殖物になってしまいました。

– 生き物なので、その時、獲れた魚から選ぶしかないですよね。
そんな経緯をスタッフ同士が「養殖だってバレちゃうよね」と話しているのを聞いていた西田さんと三國さんは、スーさんが真鯛を釣り上げるシーンで、ハマちゃんが「色、黒いね。随分」 スーさん「日に焼けたんだよ」 とアドリブで養殖の鯛の色をいじって、それを栗山監督がそのまま、笑いとして採用しています。聞き流すとなんということはない会話なのですが、そういう積み重ねがこの映画の活き活きした雰囲気に繋がっている様に思います。

釣果を喜ぶハマちゃん

– 今回もアドリブが多かったのでしょうか
この作品では、失踪したスーさんをハマちゃんが、愛知県渥美半島の伊良子岬に探しに行きます。
浜辺で、スーさんを見つけたと思って声を掛けたら、全く別の釣り人だった、というシーンがあります。
間違える位なので、同じ体格でなければならないのですが、丁度よい人が見つからずにいたところ、三國さんが「私がやります」とおっしゃって御本人が演じることになりました。

– ひとり二役ですか!
スーさんとは別人なので、全く違うメイクと扮装で演じています。単に、間違えて声をかけてムッとされる、というだけのシーンだったのが、西田さんも面白がっていて、三國さん演じる釣り人がハマちゃんを突き飛ばす、という内容に、その場で変わっていきました。

-ロケは順調だったのでしょうか。
営業三課のセット撮影を終了した後に、愛知県の伊良子岬ロケに出発しました。お天気にも恵まれて、ロケは順調!ところが、スイートルームの撮影をしている最中にホテルに、営業三課のシーンの台本の直しがFAXで入って現場は大あわて!なんでかというと、もうセットをバラシて(撤去して)いたからです!
現場で、西田さん三國さんのアイディアを膨らませ、セリフのつじつまを合わせてストーリーの変更をして、撮影内容を脚本チームに伝えて、調整しながら進めて無事に乗り切りました。今は笑い話になりましたが、ゲストの原田美枝子さんも結末がわからない状態で、演じなければならなくて、大変だったと思います。

開業したばかりのホテルのスイートルームでの撮影だった

-他に思い出に残っているロケ場所はありますか。
東京駅のロータリーでのシーンがあったのですが、丸の内警察に許可申請に行ったら、「ウチだけはないから皇宮警察に相談してくれ」、と言われ、皇宮警察に行くと、「丸の内警察に行ってくれ」と言われて、途方に暮れていたら、当時のJR東京駅の駅長さんが見かねて「東京駅の敷地内」としてOKを出してくれました。ロケ撮影で、困っていると、誰かが助けてくれる、ということは、その後もよくあって、各地の色々な方に『釣りバカ日誌』シリーズが支えられた、と思う理由の1つです。

-出来上がった作品を御覧になっていかがでしたか。
大混乱でしたが、その分、勢いがある作品になったかもしれない、と思いました。
それと、ハマちゃんスーさんのコンビも魅力的ですが、やはり、それは石田えりさん演じるみち子さんがいてこそだと。いま見ても、本当にみち子さんは可愛いですよね。

みち子さんあっての『釣りバカ日誌』!

〈その3に続く〉

映画『釣りバカ日誌』シリーズ
商品 (DVD・DVD―BOX)
https://www.shochiku-home-enta.com/c/series-turibakanisshi

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