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「木下惠介生誕110年」秦早穂子さん連載コラム第2回
白い雲-『二十四の瞳』

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  木下惠介監督作品の中で『二十四の瞳』(1954)は、最もヒットした映画だろう。製作順序から言えば『お嬢さん乾杯』(1949)や『カルメン故郷に帰る』(1951)などの後に位置するが、壺井栄原作の時代背景が昭和3年(1928)から昭和21年(1946)と昭和の重要な時代を描いているので、この連載の二番目に組み込んだ。

 瀬戸内海。小豆島の小学校は、4年生までが岬の分教場。5年生から本村の校舎に通うのが決まりだ。新しく赴任してきた大石久子先生を待っていたのは、分教場の12人の男の子、女の子。おなご先生は着物に袴が決まりの服装なのに、洋装で自転車に乗ってやって来た先生。当然、村中の注目の的だが、子どもたちは小石先生と呼び、若くて明るい先生に懐いていく。先生も二十四の瞳の子たちを愛しく思う。
 島の風景は変わらずとも、時流れ、日本は満州事変、中国との戦争から大東亜戦争へ突入。先生も結婚、3人の子どもが生まれるが、夫の戦死、娘の死。生徒たちも、戦場へ駆り出される男の子、奉公に出される女の子、それぞれの道を行く。
 昭和20年(1945)の敗戦から1年後。生き残った生徒たちは、老いた先生を招き、新しい自転車を贈るのだった。

 小豆島の小学校から東京に、時代も舞台も一気に飛んで、本作が公開された昭和29年(1954年)。すでに私は働き始めていた。『陸軍』を見てから10年経ち、その10年は、私にも大きな変動があった。いや日本の人たちにとって、誰しもが厳しい時代を生きた。この連載を書く決心をしたのは、今や昭和という時代が忘れられ、生きている人たちも数少ない。現在の日本を背負う人の多くは、昭和生まれにしても戦後生まれ。戦争の恐ろしさは語るが、戦後の心の傷は、ないがしろにしがちである。

 『二十四の瞳』の登場人物の背景は、明治、大正、昭和初期と広範囲にわたる。大石先生は明治の終りに生まれた人に想定されている。昭和ひとけた世代より自由な思想教育を受けた人たちもいたし、抵抗精神も強い。昭和の時代は、1~2年の差で、体験も記憶も違う。貧富の差、少学校から上へ進む人、奉公に出る人、様々であった。学帽と鳥打帽をかぶったふたりの男の子が先生に別れに来る場面も、当時の実情を象徴的に切り取っている。

 私の昭和16年(1941)。少学校から国民学校へ。唱歌も歌うが、軍歌が多くなる。授業の始まりには“海ゆかば”。“仰げば尊し、我が師の恩”は変わらずに歌ったが、卒業旅行中止。授業より防空壕にいる時間が多くなり、疎開先の女学校では学校工場で、軍服のボタンホールの縫製を習う。生と死は隣合わせ。子どもも、死ぬ決心をした。
 そして昭和20年(1945)。無条件降伏を終戦と言い、一億玉砕は一億総懺悔。日本史の教科書を墨で塗りつぶすのが授業になる。東京は焼け野原。闇市には浮浪児がうろつき、肩章をはぎ取った軍服の男たちが彷徨う。私の意識が完全に変わるのは、2合3勺の配給米の権利も取り上げられ、飢えと怒りで主人一家と妹までも殺した青年を偶然にも識った時から。人間、餓えてはいけない。

 時代の流れ、歴史の変わり目を木下惠介は白い雲、青い海で表現する。『二十四の瞳』の場合も、引いて見ることで、昭和の歴史を映し出し、そこに“からす なぜ啼くの”の歌を流す。白い雲は、今も浮んでいる。
 勤めた会社は、映画が見たければ感想文を書いて提出すれば、切符代を出すという妙な規則があった。当然、社員は評判の『二十四の瞳』を見に行く。誰もが感激し、涙が出たと書いていた。この映画を単に感傷的に見るだけに終わるのは、的外れと私は書いた。
 木下監督は意識的にロングの手法を繰り返し、日本人の感情を揺さぶり、同時に感傷過多で、忘れやすい傾向に一矢報いるのだ。

秦 早穂子


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◎9/3(土)~9/9(金)目黒シネマで「生誕110年 木下惠介特集」が開催!

【劇場】目黒シネマ
【上映作品】
『二十四の瞳』
『カルメン故郷に帰る』
『楢山節考』

※上映日時は劇場のHPなどでご確認ください。
http://www.okura-movie.co.jp/meguro_cinema/

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▼連載コラム「銀幕を舞うコトバたち」(49)
「そう。先生、弱虫。」(『二十四の瞳』)

◎今年は木下惠介生誕110年。
2022年12月5日に生誕110年を迎える木下惠介監督。
代表作『二十四の瞳』を始めとした、幅広い作風で人々を魅了してきました。今回の周年を契機として、2022年~2023年にかけて、木下惠介の作品世界に触れる様々な取り組みを、松竹シネマクラシックスにてご紹介いたします。

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