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連載コラム「銀幕を舞うコトバたち(47)」
お二人の間には誰も入れないという暗黙の了解があるような気がします。それが新選組なのです。

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『御法度』は気配の映画だ。殺気を秘めた、妖しく危険な気配が全編から立ちのぼってくる。大島渚の遺作でもあるのだが、新選組の内部に巣くったエロスの世界が軽妙なユーモアを交えて描かれ、なんとも瑞々しい。公開時、大島は67歳。新境地さえ思わせる本作を観ると、以後の作品を観られなかったのが残念でならない。

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 時は1865年(慶応元年)。新選組の屯所は壬生から西本願寺に移っており、新たな隊士を選ぶための立合い審査をしているところから、映画は始まる。

 局長の近藤勇(崔洋一)や副長の土方歳三(ビートたけし)ら幹部がズラリと居並ぶ中、立合いの相手をするのは新選組きっての実力者、沖田総司(武田真治)。誰も沖田には勝てないが、2人だけ入隊を許可される。美少年剣士の加納惣三郎(松田龍平)と髭面の田代彪蔵(浅野忠信)だ。

 原作は司馬遼太郎の『新選組血風録』所収の「前髪の惣三郎」と「三条磧乱刃」。加納については「眼が切れのながい単(ひとえ)のまぶたで、凄いような色気がある。色が白く唇の形がうつくしい。」と描写されている。当時、16歳、これが役者デビューだった松田龍平がまさに原作のままのイメージで、大島渚の大抜擢も納得できる。後年、『探偵はBARにいる』や『舟を編む』などで見せる飄々とした魅力はまだ備わっていないが、演技の幼さは加納惣三郎の幼いがゆえの独特な色香とも重なり、プラスに働いている。

御法度010

 加納の美貌に近藤勇さえ心躍らせ、小姓にとりたてる。さらに田代も一目惚れし、2人が衆道(男色)の契りを結んだという噂が立つと、田代以外にも加納の肉体を求める男が次々に現れ、隊内の空気は徐々に禍々しさを増すことになる。

 この異様な空気の中で笑いを誘うのが、六番隊隊長の井上源三郎(坂上二郎)や監察の任に就く山崎丞(トミーズ雅)の存在。とくに加納に女の味を教えるようにと土方から命じられた山崎が、逆に加納に色目を使われる場面などクスッとさせられる。一方、自分の色香を自覚した加納は悪魔のようだ。

 大島渚は規律の厳しい組織に生じた惑乱の波紋を鮮やかに描き出しているが、美少年一人で天下の人斬り集団がこうも乱れるものか。美少年ではなく美少女と考えれば、いつの時代の、どんな組織にも案外ありがちな話かもしれない。あるいは、女性ばかりの集団に男一人が加わったケースにドン・シーゲル監督の『白い肌の異常な夜』がある。負傷兵のクリント・イーストウッドが深い森にある女性だけの学院に迷い込むと、女の園は欲望と嫉妬の修羅場と化していく。

 大島自身の作品にも似たテーマの『戦場のメリー・クリスマス』がある。ジャワの日本人捕虜収容所という閉ざされた男の世界で、日本人大尉とイギリス人捕虜の関係がドラマチックに揺れ動く。ただし『戦メリ』が東洋と西洋、国家と個人といったベクトルに遠心力が働いているのに対し、『御法度』は隊士の内面へ、さらに無意識へと求心力が働く。

 新選組を扱った映画でありながら、勤王佐幕の闘争は省略され、派手な殺陣もない。男同士が肌を合わせるシーンもごくわずか。緊張感のある男同士の会話によって物語が紡がれる。集団劇でありながらツーショットのシーンを重ねることで、危険なエロティシズムの気配は濃度を高めていく。

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 新選組という時代の転換期に生まれた武装集団の核心にいたのは近藤勇と土方歳三である。両者の関係について、衆道から距離を置いた沖田総司が面白い指摘をする。

「私にはお二人の間には誰も入れないという暗黙の了解があるような気がします。それが新選組なのです。ところが、時々そこへ誰か入ろうとする。近藤さんがうかつに入れようとする時もある。土方さんはそれを斬る」

 新選組の一番の御法度は近藤と土方の関係を壊すことだと言わんばかりだ。

 こうした土方と沖田の会話から、さらに加納と田代も登場する幻想的なラストのシークエンスへと映像は流れるように続くのだが、美術も衣装も、そして謎めいた甘美な色調も見事。狂気を秘めた日本的な美しさは頂点に達し、何度でも観たくなる。

文 米谷紳之介


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