連載「女ひとり、「釣りバカ」完走してきます【シリーズ10】」
映像の質感やヘアメイクの雰囲気がだいぶ現代に近づいてきた「10」。何年公開だっけなとDVDの裏表紙を見てみれば、ちょうど20年前の1998年でありました。ガングロのコギャルがマイメロのカバーをしたピッチを人気男子校のバッグにぶら下げていた時代ですね。
そんな時代に放たれた本作は、シリーズ史上最大にシビアで強烈なメッセージ性を孕んだ1本でありました。
まず冒頭。お金の無心ばかりしてくる娘に腹を立てたスーさんは、頭ごなしに「お前が甘やかしてきたせいだ!」と妻の子育てを叱咤。奥さんは「あんたの娘でもあるのに…」と一人悔し泣きします。
オープニングからとんでもなく不穏な空気が漂う中、いつもどおりにトンマな重役たちによってついにイライラが爆発したスーさんは社長を辞職。「こっからは余生を楽しんでやる!」とばかりに伊東まで釣りに出かけますが、付き合ってくれる人はナッシング。
社長を辞めてもなんにも楽しくないスーさんは結局ハマちゃんちへ向かったものの、「平リーマンと比べて金持ち老人はいいご身分だよね」とハマちゃんからも塩対応をくらってしまいます。
ここでハマちゃんが、「不況下の日本において定年後も働かずに暮らせる人なんてほぼおらず、街を見回せば老体にムチを打って仕事をしている人がどれほどいることか……」みたいなことを滔々と説くのですが、これを聞いて本当に自分はどんよりしまして。だって20年前のこのセリフから現況はまったく変わっていないんですもん。ハア。
ハマちゃんに発破をかけられビルメンテナンスの会社でアルバイトを始めたスーさんの派遣先は、「鈴木建設」。そう、自分の会社でこっそり働くことになったのです。
そうして管理室のある地下から用務員として眺めてみた社内は、強い者が弱い者を叩き、弱い者がさらに弱い者を叩く超階級社会。かといって組織の長である自分のことだって誰も本当に気になどかけていない、なんとも寂しく冷たいコミュニティがそこにありました。
そんな厳しい世の中の一筋の光として描かれるのが、金子賢×宝生舞演じる今どきカップル。ゴローズをじゃらつかせたいかにもイケてるあんちゃんの金子賢が恋人の妊娠を機に家庭を持つ決心をするのですが、その姿がとてもいじらしく、未来に溢れた若人の決意がいかに美しく尊いものなのかということを教えてくれました。
絶妙に光と影が入り乱れる超重厚な一作、ぜひお楽しみください!
文 小泉なつみ
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「女ひとり、「釣りバカ」完走してきます」
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