映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【花のお江戸の釣りバカ日誌編】
【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、第1作が公開されました。
バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。
【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/
【今回の作品】
映画『花のお江戸の釣りバカ日誌』
1998年12月23日公開。
- お正月映画としての公開ですね。
栗山監督と私の中では、『釣りバカ日誌10』でシリーズは終了だろうと勝手に思っていたら、急遽プロデューサー部より、「正月映画として釣りバカを上映したい」と言われ、驚いたのを覚えています。夏に慌てて準備に入り、時代劇なので大船ではなく京都の松竹撮影所で撮影することになりました!
- 京都でお仕事をされたことはあったのですか。
当時、大船と京都はつながりが薄くて、栗山組のスタッフを連れていくことが出来ず、栗山監督と私と助監督、スチールマンと記録の5人で京都に乗り込んで、京都のスタッフで撮影をしました。結構ビビッて行ったのを覚えています。
- 京都の撮影所はどんな感じですか。
太秦にある松竹京都撮影所で、映画を大船からスタッフが行って作る事が無い時代でしたので、お互い手さぐりしながらクランクインしました。
- 初めて会うスタッフばかりだったのですね。
京都のスタッフは、時代劇を撮影するプロフェッショナルで、東京のスタッフを嫌って対立する、と聞いていたのですが、撮影スタッフは『釣りバカ』が京都にやってくる!と喜んで迎え入れてくれて、とても良いコラボレーションになりました。のちに、山田洋次監督が
『たそがれ清兵衛』などの時代劇を、京都で撮影するきっかけになったと思います。
- 映画は、にぎやかに始まって、まさに「花のお江戸」という感じです。
昔は、劇中で突然歌や踊りが入ったりする、明るくて楽しい気軽な時代劇がよく作られていました。先輩からそういう映画は「ギンギラ映画」というのだと聞かされていましたので、今回はまさにその流れだと思いました。「ダチョウ倶楽部」や子供だった頃の「マナカナ」や「大木こだま・ひびき」さんも出演されて、華やかでにぎやかで。まさに「ギンギラ娯楽時代劇」でした。
ギンギラ映画!
- 時代劇ということで、セットも全く違いますね。
大御所の美術監督である西岡善信さんも参加してくださったのですが、ちょっとしたアドバイスで、グッと内容に深みが増していくことを目の当たりにしました。中でもビックリしたのは、大道具さんに説明するために、地面にいきなり図面を引くかのように、線を描きだしたことです。そして、その伝えたい内容を完璧に理解する大道具さんもスゴい!。まさにレジェンド。
- 長屋が2階建てですね。
ドラマや映画の長屋は平屋であることが多いのですが、当時は二階建ての長屋も多かったため、今回は二階建てのセットにして頂いています。奥行が感じられるし、後半のミュージカルのシーンでも効果的に使われています。
- 撮影所に建てられたセットですよね。
屋外にあるので、「オープンセット」と呼んでいます。オープンセットでは、本当に狭い土地に知恵をしぼって江戸の町を作りました。実は、家のセットにタイヤが付いていて、家をいろいろと組み合わせて、町の通りに変化をつけているのです。
この大家さんは佐々木課長のご先祖様?
- ロケ地としての京都は、いかがでしたか。
京都は町全体が大きなオープンセット、というのは、ちょっと言いすぎかなあ。まあ、撮影に適した場所がたくさんあるのです。「こういうシーンの時は、ここに行けばよい」という引き出しが、とても多いのです。そもそも街並み自体が、美しいですからね。東京とはそこが随分違っています。撮影をしやすい空気は出来ています。
- 同じ場所でも作品によって、全然違ってみえるのでしょうね。
ロケでは新しい場所も開拓しました。当時、「二条城は撮影には借りられないよ」と言われていたのですが、交渉の結果、貸していただくことができました。その後から、たぶん他の作品も撮影するようになったと思いますよ。
- ロケ場所も豪華ですね。
山形県庄内の羽黒山でのロケも、国宝の五重塔の前で立ち回りをしましたしね。ロケ地も盛りだくさんでした。
国宝五重塔の前にて
- おなじみの皆様も着物姿で登場します。
重役を演じていらっしゃる出演者の方々も、庄内藩のそれぞれ、着物姿が決まっていて素晴らしいのですが、なんとっても伝助の上司を演じた中村梅雀さんは、前進座のご出身ということで、佇まいから歩く姿、座る姿、最後のシーンの剣舞もそうですが、全てが素晴らしくホレボレしました。
ご先祖様もマイペース
- ゲストの方々も新鮮ですね。
かたや山田純大さんは、お父様は時代劇の大スターですが、この時がおそらく初めての時代劇だったのではないでしょうか。刀を持っての殺陣に苦労されていました。足がもつれて、難しさに悩んで、一人、もくもくとオープンセットで練習されていたのを覚えています。その甲斐あって、本番では見事な立ち回りを披露されていました。
夜釣りに出かけるとそこには、怪しい者共が!
- 他にもいろいろな時代劇の要素がてんこ盛りですね。
冒頭の仇討ち騒ぎだったり、京都撮影所お得意の「必殺!」風のカットとかね。「暴れん坊将軍」風のカットのところは、三保の松原まで撮影に行って、西田さんは自分の馬を運ばれて、本家と同じ所で撮影していますから。後から付けた音楽も限りなく、似たような音楽になっています。突然、その夢のシーンになるので、「わけがわからないけど面白い」という感じですね。
愛馬と共に
- 最後のミュージカルシーンも印象的です。
台本ではごく普通の祝言のシーンだったのですが、相談の結果「オーソレミオ」で、歌い踊ることになりました。西田さんは、市川猿之助(現猿翁)さんの「スーパー歌舞伎」を意識されての「宙乗り」です。それこそ、「必殺!」にも参加しているスタッフが多かったので、「宙乗り」などお手の物という感じでした。上がっていくときに、西田さんはちょっとだけ他の方より重いので、途中で少し止まってから、すっと上がってるのが、よく御覧になるとわかると思います。後ろから人力で上げてますので。
- 黒木瞳さん演ずる小浪も可憐ですね。
宝塚のご出身ということで、ミュージカルはお手の物で、生き生きとされて、みち子さんとは別の型でハマちゃんを引き立ててくださいました。
- 大家さんである谷啓さんが、トロンボーンを吹いています。
谷さんは、トロンボーンの名手ですからね。是非に!とお願いして吹いて頂いています。
2階長屋が効果的なシーン
- 衣装や小道具も印象的です。
この時も美術や衣装をはじめ、スタッフが、「どうしたら面白くなるか」と夢中で考えていて、夜遅くまでかかった撮影でした。京都の冬は本当に寒いのです。そんな中でも、皆とても熱心でした。大船撮影所だろうと京都撮影所だろうと、その姿は全く変わりませんでした。
- 『釣りバカ日誌』シリーズの懐の深さですね。
西田さん三國さんはもちろんのこと、技術スタッフの底力のおかげで、時代劇であっても型にはまらず、自由に作品が作られたことができ、結果として、とても『釣りバカ』らしい、「ギンギラ映画」らしい時代劇になりました。
〈その11に続く〉
映画『釣りバカ日誌』シリーズ
商品 (DVD・DVD―BOX)
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