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映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【その10】

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【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、第1作が公開されました。
バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。

【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/

【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌10』
1998年8月8日公開。

- シリーズ22作品の内の、11本目の作品です。
シリーズが始まったのが、1988年の12月ですから、ちょうど10年目に作られました。それでも、西田さん三國さんは、毎作品、終わる度に「来年会いましょう」とは、仰っていなくて、特に三國さんに関しては毎回「次回があれば、台本を読んでから決めさせて下さい」というスタンスは変わりませんでした。当時、地上波のテレビ放映で何回も放送されていましたし、ビデオやパッケージもよく売れて、映画シリーズの知名度や人気は完全に定着していました。

- オープニングのタイトルバックは、マンガで展開します。
このために、原作の北見けんいち先生に描き下ろして頂いています。お話に合わせて、音楽もストーリー仕立てになっていて、ほのぼのとしたファンタジーな感じです。その後は重役会議での悩み多きスーさんが登場しますので、対照的ですよね。

- 重役の役者さんも個性的ですが、どのように人選されていたのでしょうか。
製作担当である私は、直接キャスティングする役割ではありませんでしたが、ご出演頂く俳優さんをプロデューサーや監督が検討している時に、裏から監督に提案をすることもよくありました。

- 例えば、どんな方を推薦されましたか。
私は、もともと映画が好きだったので、映画の専門学校の学生の時に大道具のバラシ(解体)のアルバイトで大船撮影所の門を叩き、その翌年にフリーの演出スタッフとして、出入りするようになりました。それと同時に、映画と同じくらいテレビっ子だったので、前にもお話したように、三國さんの印象も最初は大映ドラマの「赤いシリーズ」だった位です!そして、とても人気のあった「太陽にほえろ!」が大好きだったんです。

- それで、重役室にあの方々が!
そうです!なので、『釣りバカ日誌7』の時に、まず「竜雷太さんを呼んで欲しい」とプロデューサーに頼み、皆も大賛成してくれて、オファーをしたところ、ご出演頂けることになりました。とっても嬉しかった!さらに、次の『釣りバカ日誌8』からは、小野寺昭さんもご出演頂けました。

- 気が付いているお客様もいらしたでしょう。
お二方がちょうど、少し若めの会社役員であるような御年頃になられていたので、夢のキャスティングがかないました。「ゴリさん」と「殿下」が同じ画面で並んでいる!おそらくですが、「太陽にほえろ!」のファンの方にも喜んで頂けたのではないかと思います。

この並びは!

- 素敵な遊び心ですね。
御二方とも素晴らしい俳優さんなので、他の作品でも、会社役員を演じられていると思います。でもこのシリーズでは、対外的に強調していませんが、意図的に御一緒の出演をお願いしていた、というわけです。

- 重役会議は、スーさんの日常ですものね。
加藤武さん演ずる秋山専務を中心とした鈴木建設の重役たちが登場するシーンは、鈴木社長としての「スーさん」がどんな人物なのか表現しているので、単なる会議のシーンではなく、コメディ映画の重要な要素です。今回はドタバタも多いですしね。

ビル管理のおじさんだと思ったら!?

- 他のシーンにも、ご推薦されたことはありますか?
細川ふみえさんの当時のマネ―ジャーさんと私が仲が良くて「出演させてほしい、小さな役でいい!出演料なしで良いから!」とお願いがありました。マネージャーさんが、『釣りバカ日誌』の大ファンだったからです。

- 当時、細川ふみえさんは、売れっ子でしたよね。
出演されていたCMも人気でしたし、お忙しかったはずです。一方で営業三課のキャスティングもほぼ決まっていたので、「無理だよ!」と言ったのですが、「どうしても!」ということで、出演されることになりました。営業三課の制服の衣装部さんに頭を下げて、増やしてもらい、プロデューサーに内緒で決めてしまいました。

- プロデューサーはビックリされていたのではないですか。
「出演料どうしよう!」と心配していたので「なくて良いって言ってるから!」と説き伏せました。

- ご出演されていかがでしたか。
西田さんや他の出演者の方々と息がピッタリあって、アドリブ含めて楽しくお芝居して頂けました。細川さん演じる「ひとみちゃん」のおかげで、営業三課がとても華やかになりました。その後、時代劇も含めて3作品にご出演されています。

出演料はお支払いされたそうです。

- ボイラー室から社長室まで、会社の様々な場所が登場しますが、屋上もその1つですね。
正体がバレてしまったスーさんが、ハマちゃんを屋上に呼び出すシーンがあります。この時の撮影で問題になったのは「音」です。屋上なので、当然セリフ以外の音があっても、セットや室内と違って止めることが出来ません。こういう場合、普通は画だけ撮影して音を後から録音します。「アフレコ」と言います。

- アフター・レコーディングの略でしょうか。
そうです。アニメ―ションなどもその形で行っていますよね。これは、俳優さんによって、得意な方とそうでない方といらっしゃいますし、臨場感という面では、現場での同時録音には敵いません。基本的には避けますが、どうしても、という時はやむなくそうします。

- どんな作業が必要になるのでしょうか。
撮影された映像を見ながら、それに合わせて役者さんが、セリフを言って、それを録音します。後の作業で、風や通りの車の通行音など現場の雰囲気を録音した、いわゆる効果音を足すので、出来上がった画面は現場で録音した状態に最大限近づけたものになります。

- 今回はどうされましたか。
『釣りバカ日誌』シリーズは、第1作の時から、西田さん三國さん共に「アフレコは無しで」と仰っていました。御二方はアドリブで、その時のテンポと息を大切にされていて、掛け合う事で芝居を構築されていたからです。この時も当然、「アフレコは避けたい」と仰っていました。決まったセリフだと合わせやすいのですが、自由に話している状態に合わせるのは、かなり難しいことですから。

- どうなさったのですか。
ロケ当日、屋上は強風でとても録音はできない、という状態でした。なのでセリフは思い切ってナシ。ゼスチャーのみになりました。セリフだけの画面を挟んで、無声映画のようになっています。音楽のかしぶち哲郎さんが後からつけてくださったエスニック調の音楽も効果的で、面白いシーンですよね!

ビル管理の仕事も終わり…。

- 音楽と言えば、今回の宴会シーンには、ハワイアンが流れます。
お祝いの席で、ハマちゃんが謡の「高砂」を披露する、という台本だったのですが、西田さんからの提案で「ハワイアンにしたら、どうかな」というご提案がありました。その方が面白いから!と。

- 「ザ・ドリフターズ」の高木ブーさんが登場しています!
ハワイアンのバンドを急遽探したら、当時、本格的なハワイアンのバンドは日本に4つ5つしかなくて、その中で特に代表的だったのが、高木ブーさんのバンドだったのです。栗山監督は、松竹で昔製作していた「ドリフターズ」の映画シリーズに、助監督として、参加されていたんですよ。私も小学生の頃から、「ドリフターズ」は大好きだったので、ファン心に火が点きました!

- 襖をあけると、急に全く違う世界が展開しますね。
撮影の4日前にブーさんの出演が決まったくらいギリギリの日程だったので、この時も、ロケ場所への建て込みを美術部さん、照明部さん、担当の演出部さんは大急ぎで頑張ってくれました。

襖が開くと、そこにはまったく別の世界が…。

- 北九州市でのロケはいかがでしたか。
今回も大歓迎して頂きました。例えばですが、ハマちゃんと金子賢さん演ずる松五郎が、JR小倉駅に到着して、宝生舞さん演ずる松五郎の恋人みどりの実家に電話をするシーンがあります。

- 駅前での撮影は、どうしても目立ちますね。
スタッフだけで打ち合わせをしている段階から、何となく見物のお客様が集まり始めて、撮影する頃には大変な人数になってしまいました。

- 撮影できたのでしょうか。
ロケ撮影の時は『釣りバカ』に限らず、見物の方々には画面に写らない場所に移動して頂くお願いをすることが多いのですが、この時は交通整理のお手伝いをして下さっていた地元のロケ実行委員会の方々からも、「お手上げです!」との声が上がりました。「ここでは、こういう風に撮影しよう」ということは予定していたのですが、そのカットを撮影すると見物の方々が入ってしまいます。

- どうされましたか。
立体交差している歩道橋の上が撮影場所なのですが、電話で話しているハマちゃんしか写らないように、キャメラの向きを少し空に向けることにしました。結果として、このシーンが終わった頃には、何万人も集まっていらっしゃたそうです。歩道橋の下にいらっしゃる方々は、何が行われてるか全くわからなかったと思いますが…。

- 大歓迎だったのですね。
ここまでのシリーズ撮影中でも、上位に入る位、たくさんの見物の方々がいらしたのではないでしょうか。どなたにも怪我がなくて、本当によかったです。

作品内とは、別角度の写真。背景に注目。

〈『花のお江戸の釣りバカ日誌』に続く〉

映画『釣りバカ日誌』シリーズ
商品 (DVD・DVD―BOX)
https://www.shochiku-home-enta.com/c/series-turibakanisshi

土曜だ!釣りバカ!
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