松竹シネマクラシックス

  1. トップ
  2. 映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【スペシャル編】

映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【スペシャル編】

カテゴリ:

【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、第1作が公開されました。
バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。

【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/

【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌 スペシャル』
1994年7月16日公開。


- 『スペシャル』ということで、特別な作品ということでしょうか。
『釣りバカ日誌6』が、前年12月公開なので、半年と少しで次の作品が公開されたことになります。はじめての1本立て、はじめての夏公開、はじめての監督交代、と、シリーズ6年目にして、はじめて尽くしです。私は、予算と撮影スケジュールを担当する製作担当としては、3本目の作品で、重圧を感じていました。

- 前作からあまり時間が経っていないということは、準備期間も短そうですね。
浜崎家を含めて、毎回セットは変わっているのですが、今回は『6』の時のセットを使っています。でも、1番大変だったのは、ロケ先の島根県のロケ実行委員会の方々です。
もともと「島根にロケを誘致をしたい」という仰って頂き、『釣りバカ日誌6』の釜石市の撮影を、見学に来て下さっていました。その時に会ったのが初めてなのに、まさか半年後にロケするとは!今、考えるとムチャなことをしてますね。

- 熱心に誘致して下さっていたんですね。
1年後を予定していたのですが、スペシャルを作ることになったので、急遽、ご相談しました。準備期間は、1年間でもやらなければならないことが山積みなのに、それを半年で行わなければならない、ということで、本当に大変な思いをさせてしまいました。たぶん「なんで、こんなに時間がないの!」という感じだったと思いますすが、本当に熱心に取り組んで頂きました。

- 今回は、佐々木課長の家庭が登場します。
はじめは、「番外編」として、今で言うスピンオフ的な位置づけで、製作されることになっていて、その中心が、佐々木課長でした。後に「スペシャル」として、製作されることに変わりましたが、それが残っていて、後半の濃厚な物語との対比もあって、前半は、佐々木課長の娘、志野(富田靖子)の縁談から巻き起こる、「若い恋」の物語になっています。物語のカギとなるブルーハーツのCDは、若手助監督さんが推薦して、採用されました。当時、とても人気が高かったんですよ。

- お見合い相手と志野がデートしているところに、志野に恋する幼なじみの青年が押しかけますが、これは銀座でしょうか。
数寄屋橋交差点横の、今は無きレストランです。押しかけてきた青年が、ブルーハーツのCDを渡して去っていくと、志野は意を決して、彼を追いかけて行き、呼び止め、車が行き交う道路の中、近づいていき、道路の真ん中で気持ちを伝えあい、去っていく、というシーンです。編集でカットを割ってますが、レストランの中から出ていくまで、1カットで撮影しました!

- 前半の山場でしょうか。
この一連を、「極力カットを割らずに撮影する、しかも銀座で」となると、数寄屋橋交差点の前ですから、テストを何度も出来ませんし、スタッフが大勢占拠することもできません。トランシーバーを駆使して、先程の若い助監督さんが、孤軍奮闘しました。緊張感のある良いシーンになりましたが、今では許されない様な無茶をした撮影でした。撮影に寛大だった時代のなごりですかね!?

佐々木課長にこんな素敵なお嬢さんが!

- 監督が代わられた影響はありましたか。
今回の森﨑東監督は、大船撮影所では、山田洋次監督の先輩にあたり、独特の素晴らしい喜劇を作って来られた方です。ハマちゃんスーさんをはじめとしたお馴染みの登場人物のキャラクターは、変わらないのですが、見せ方が全然違います。

- ゲストの方も個性の強い方々ばかりですね。
田中邦衛さん、清川虹子さんといった方々が登場すると、「森﨑監督の映画!」という感じが強くなるし、ハマちゃんもスーさんの人物像もまたしかりで、監督が変わると同じシリーズでも、「こんなに雰囲気が変わるものなんだ!」と完成した時に、改めて実感しました。シェークスピアの「オセロ」を下敷きにしていることもあって、ハマちゃんが、スーさんとみち子さんの仲を疑いますが、これも初めてのことですから。まあ、『釣りバカ』の流れとは違っていますが、「これもありかな」と思いました。

勘違いしたハマちゃんは、常軌を逸してしまい…

- 毎回違うスーさんですが、今回は同世代の友人との会話が垣間見られますね。
西村晃さんは、三國さんと親しかったそうで、息もピッタリですよね。
一緒にクラブに出かけるのですが、実際に営業している高級クラブをお借りしました。
今のキャバクラとは違って、派手な装飾は一切ないので、キラキラしていなくて、一見地味なんです。でも、置いてあるものが全て洗練されていて「一流ってこういうことなのか」なんて思いました。

名優の共演

- ロケのエピソードを教えて頂けますか。
この時の、釣り具店前のシーンは、羽田空港の手前で撮影しました。夜のシーンを撮影しようとすると、空港の巨大広告の灯りが、どうしても写ってしまいます。今と違って、合成は特別なものだったし、費用的な問題もあるので、どうしたものかを考えた結果、灯りが消えた朝3時から撮影することにしました。

- 朝の3時ですか!
さすがに、その時間は広告灯が消えてますからね。それでやっと、夜のシーンの撮影が撮影できました。

- セット撮影は順調でしたか?
いや、これも問題がありました。当時、森﨑監督の撮影のペースは、大体、1日につき台本の3、4ページ分でした。ラストの社長室のシーンは8ページから10ページあるので、本来なら2,3日欲しいところです。

- 出演する方の人数が多いシーンですね?
ただ出演者の人数が多いだけでなく、「忙しい方が多い」のです。どうやって調整しても、全員が揃う日にちが、1日しか取れませんでした。

- どうされたのですか?
普段、極力そういう相談はしないのですが、この時ばかりは、森﨑監督に「1日で何とか御願いします」相談しました。
そうしたら、逆に「よし!1カットで撮ろう!」と張り切って下さいました。実際には、2カットに割りましたが、本当に1日で終らせて下さったんですよ。

社長室。確かに大勢の重役たちが!

- そして、この作品で、石田えりさんのシリーズへの御出演は、最後になりました。
お話してきたように、この作品は、現場のアドリブで即興的にシーンが、ドンドン作られていきます。活き活きとした場面がたくさんあるのは、そのためですが、石田さんの考えるみち子さん像と、現場で求められるみち子さんの芝居に違いが生まれてしまったのか?本当のところは、えりちゃんにしか、わかりません。

- お仕事の仕方の違い、というような感じでしょうか。
正解はありません。どちらかが正しくて、どちらかが間違っている、ということではなく、仲が悪くなった訳でもないのです…。なので「次回の作品には出演しない」と決まった後、西田さん三國さんや監督と一部のスタッフと石田さんは、「円満離婚パーティ」と称して、品川のホテルで、慰労会を開きました。

- 石田さんのシリーズへの貢献は、ゆるぎないですね。
こうして、映画『釣りバカ日誌』が、お客様に愛されるシリーズに育つために、大きな働きをしてくれた「石田さん演じるみち子さん」は、この作品まで、ということになりました。

出雲大社で、再会したハマちゃんとみち子さんと鯉太郎

〈その7に続く〉

映画『釣りバカ日誌』シリーズ
商品 (DVD・DVD―BOX)
https://www.shochiku-home-enta.com/c/series-turibakanisshi

土曜だ!釣りバカ!
BSテレ東にて、毎週土曜放送中
https://www.bs-tvtokyo.co.jp/cinema/

◆Webサイト https://www.cinemaclassics.jp/tsuribaka-movie/
◆Twitter https://twitter.com/CINEMACLASSICSS
◆Facebook https://www.facebook.com/Tsuribaka.shochiku