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連載コラム「銀幕を舞うコトバたち(46)」
私も元気で一生懸命で芸術をうちこんでいます。

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記念すべき日本のカラー映画第1号が『カルメン故郷に帰る』である。カラーの魅力を引き出すために撮影はほとんどロケで行われ、浅間山麓の牧歌的風景に、東京からやってきた原色の衣装の娘2人を配した映像が鮮やかだ。大自然の緑と人工的な原色。その対比の中で、木下恵介監督らしい、伸び伸びした喜劇が展開していく。

小林正樹監督『カルメン故郷に帰る』

 東京からきた2人の娘とはストリッパーである。その一人、高峰秀子が演じるのは家を飛び出し、東京に行ってストリップの世界で成功したきん。芸名がリリィ・カルメン。彼女は友人のマヤ朱美(小林トシ子)を伴い、派手な格好で里帰りしてくる。

小林正樹監督『カルメン故郷に帰る』

 リリィとマヤの自由奔放なふるまい、挙句のドタバタ騒動に父親(坂本武)や小学校の校長(笠智衆)は頭を抱える。村の人たちも2人を憧れと軽侮の両方の目で見ている。それでも村の雰囲気がいつになく明るいのは、リリィとマヤが小さなか田舎の村に都会の風を吹き込んだからだ。

小林正樹監督『カルメン故郷に帰る』

 劇中に度々出てくる言葉が「芸術」である。里帰りに際し、リリィが父親に宛てた手紙にも少し変な日本語でこう書かれている。


「私も元気で一生懸命で芸術を打ち込んでいます」

 
 自分たちを芸術家と信じる2人の会話がまた楽しい。マヤが芸術に行き詰ったことを打ち明けると、リリィは熱く励ます。


「あたいたち、芸術のためには死んだっていいと思ってんじゃないの」
「元気をお出しよ。芸術に悩みはつきものなんだから」


 
村で起こした大失態の汚名を晴らすため、自分たちのショーを見せることを決意するときも芸術家の誇りが顔を覗かせる。
 

「あたいたちの芸術がどんなもんだか見してやんの。そうすりゃ昨日の失敗くらいへいちゃらよ。東京で大受けなんだもん」


 
 無邪気なのは彼女たちだけではない。事情をよく知らかった小学校の校長も最初のうちは
 

「とにかく芸術だからね。君、日本は文化だよ」

 
と、リリィを舞踏家として大いに持ち上げている。
 では、芸術とは何か。
そんな問いかけが画面の向こうから聞こえてくる。しかも喜劇を通して、意外な難問をあっけらかんと放り投げてくるのだから、木下恵介の懐は深い。
芸術とは「美しく、人を感動させるもの」、少しかしこまった表現をすれば、「美的表現に高められた絵画・文学・彫刻・音楽といった創作」というあたりが、笠智衆が演じた校長の認識に近いのかもしれない。

しかし、今は何を芸術と感じるかは人それぞれ、解釈は自由である。1917年に、マルセル・デュシャンが男性用小便器を上向きに置いて「泉」の題名で展示し、アートだと主張した頃から従来の芸術の定義は揺らぎ始めた。その約半世紀後にはアンディ・ウォーホルがスープ缶を描いた絵を並べただけの個展を開いている。ともに既存の芸術に異議を唱えたわけだが、二人の名前は今ではすっかり現代アートの代名詞となっている。
つまり、芸術とは美しいもの、感動を呼ぶものだけではなく、わけがわからなくても心をとらえる引力を持ったもの、あるいは旧態依然の考え方や常識を壊して、新しい世界や価値観を示してくれるものでもある。こうなってくると、芸術は校長先生より、リリィの言い分にぐっと近づいてくる。

小林正樹監督『カルメン故郷に帰る』

象徴的なのは、リリィとマヤが噴煙舞い上がる浅間山をバックにした丘陵で、服を脱ぎ捨て、下着姿で踊り出す場面。いやらしさも滑稽さもなく、リリィは女神のように輝いている。その光景をたまたま写生に来ていた小学生たちが目撃してしまう。先生(佐田啓二)はあわてて生徒を麓に追い返そうとするのだが、生徒たちはもっと見ていたそうだ。彼らが大人になって振り返ったとき、リリィの踊りは自分の知らない世界を見せてくれた、忘れがたい体験のはずである。
芸術とは出会いである。映画もまた芸術であり、そこには出会いや発見がある。それまでモノクロ映画しか見たことのない人にカラー映画はどれほど新鮮に映ったのだろうか。しかも、それが『カルメン故郷に帰る』だとしたら、このうえなく幸福な芸術との出会いだったと思う。

文 米谷紳之介


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