自他共に認める天才監督・木下惠介。「僕って天才だなあ」などとつぶやきながら、撮影したラッシュ・フィルムを見ていることもしょっちゅうだったというが、そんな姿が嫌味に思われないところが天才の天才たる所以かもしれない。もっとも天才ゆえの破天荒ぶりもしばしうかがえるところで、たとえば彼は実家が漬物屋だったせいで、逆に漬物が大嫌い(あの匂いが嫌だったそうだ)。おかげで撮影中、助監督たちはロケ弁などの漬物チェックが日課となっていた。もし入っていようものなら、監督が癇癪を起こして撮影どころではなくなってしまうからだ。