小林正樹監督との出会いが音楽家として成長させてくれた~武満徹さんの思い出
カテゴリ:イベント, 映画監督小林正樹生誕100年記念
ユーロスペース(渋谷)で開催中の小林正樹監督生誕100年記念特集上映。10月16日(日)2本目の公開作品は『日本の青春』(1968年公開)。
主人公は、戦争中に上官の暴力で耳に傷を負った戦中派の男性・向坂。戦後、特許事務所を構え、妻(奈良岡朋子)や子供たちと暮らす平凡な日々を送っていましたが、戦時中に心を通わせた女性・芳子(新珠三千代)や、かつて自分を傷つけた上官の鈴木(佐藤慶)と再会。蘇る芳子への思慕や鈴木への怒りを抱えた向坂の内面的な葛藤を通して、人生のやるせなさ、戦争が残した傷の深さを静かな重みとともに語りかける物語です。
往年の名優たちの演技も素晴らしいこちらの作品。主演の藤田まことさんは、苦悩する不器用な男・向坂を見事に演じており、名悪役として知られる佐藤慶さんは、徹底した歯切れよい意地悪ぶり。なお、筆者は狂言回し的な役を演じた花沢徳衛さんがとても印象的でした。頑固おやじのイメージが強い花沢さんですが、この作品では、コミカルでずっこけているのにどこか小粋さも感じさせる役どころ。ベレー帽がとてもよく似合っていました。
そして、ストーリー構成やキャストの演技とともに、この作品の情緒となっているのが、流れる音楽。担当したのは、戦後の日本を代表する作曲家・武満徹さんです。
劇中の音楽は、内省的な主人公・向坂の心をときに揺らす風であり、ときに潤す雨のよう。苦しくて悲しい傷を負った彼が苦悩の底に沈み込んでしまわぬよう、武満さんの音楽が緩やかさと癒しをもたらしていたように感じました。
映画の上映後、武満徹さんの娘であり、音楽プロデューサーの武満眞樹さんとギタリストの鈴木大介さんが舞台に登場。武満徹さんの思い出を語りました。
数々の映画音楽を手がけた武満徹さんですが、映画が大好きで、病気で入院されていたころ「できるとしたら映画を1本作りたい。宮本武蔵が現代にワープした映画を作りたい」と語っていたそうです。映画音楽の仕事では、台本のときからかなり読み込んで「ここで音楽を入れるのではないか」ということを書き込み、ロケにも足を運んでいたという武満さん。夜も寝ずに仕事をするときもありましたが、それでもとても楽しそうにやっていたそうです。そんな父親について、娘の眞樹さんは、「自由だったんじゃないですかね。作曲は普段は孤独な作業だけれど、映画は共同作業で、自分が大きな作品の一部になれることを喜んでいましたね」と語りました。
小林正樹監督作品の音楽を、多数手がけた武満さんですが、『切腹』『怪談』では日本古来の楽器を使った、当時としては斬新な試みをしています。邦楽器を使った理由について、眞樹さんは、武満さんが、当時、日本の時代劇でなぜ日本の楽器を使わないのかと疑問を持っていたことと、「小林監督の映像の独特の質感において、西洋のものよりも日本の楽器が合うと思ったんじゃないでしょうか」とコメント。映画音楽の仕事をする際、無音のラッシュを見て聞こえてくる音があり、自身の頭の中に響く音に一番近い楽器を選んでいたという武満さん。『切腹』『怪談』についても「日本楽器の音が聞こえてきたのではないか。ストーリーということではなく、絵で音を決めていたのではないかと思います」と眞樹さんは振り返りました。
また、同様に武満さんが音楽を手掛けた小林監督の『燃える秋』の話題に際し、武満さんが熱心な阪神ファンだったという話題も披露されました。同作品の主題歌を歌ったのは、コーラス・グループのハイ・ファイ・セットですが、レコーディングを終えて帰ってきた武満さんがとてもうれしそうにしていて、なぜかというと、ハイ・ファイ・セットの山本潤子さんをはじめとするメンバーがみな阪神ファンだったからだそうです。こちらについて、鈴木さんも、武満さんは「どこのファンか」と聞いた相手が「ジャイアンツ」と答えようものなら、「君のために曲は書けない」という勢いだったというエピソードを明かしていました。
「『不良少年』で羽仁進監督と仕事をしたことで初めて映画音楽というものがわかり、小林正樹監督と出会ったことで、音楽家として成長させてもらった…と話していたという武満徹さん。『切腹』『怪談』における邦楽器を用いた仕事は、のちの武満さんの代表作である尺八、琵琶とオーケストラの演奏曲「ノヴェンバー・ステップス」につながっており、小林監督と武満さん、ふたりの仕事の変遷は重なるところがある…と語りつつ、トークは終了。
その後、鈴木さんが、『日本の青春』『燃える秋』より、武満徹さんの楽曲を生演奏で披露。ギターで奏でられる心にしみるメロディと哀愁とパッショネートにあふれた旋律が美しく会場を包み込みました。
小林正樹監督生誕100周年を記念した今年2016年、小林正樹監督と武満徹さんがタッグを組んだ作品の数々がブルーレイ、DVDとして蘇っています。監督として、作曲家として大いなる仕事を成し遂げた両雄の軌跡、みなさんもあらためて辿ってみてはいかがでしょうか?
(取材・文/ 田下愛)
武満徹さんが音楽を担当されている『からみ合い』以降の作品も上映中です。
【上映】
10月28日(金)まで!
ユーロスペースにて『生誕100年小林正樹映画祭 反骨の美学』
URL:http://www.eurospace.co.jp/
【DVD】
『怪談』『上意討ち –拝領妻始末-』『いのちぼうにふろう』DVD発売中!
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東宝株式会社 映像事業部映像戦略室パッケージ事業グループ
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