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映画『釣りバカ日誌』よもやま話 【その7】

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【はじめに】
映画『釣りバカ日誌』シリーズは、時代が平成に変わる1988年12月24日お正月映画として、第1作が公開されました。
バブル景気やゼネコン疑惑など移り行く時代を背景に、建設会社の社長「スーさん」と平社員である「ハマちゃん」の釣りを通して結ばれた立場逆転の風変わりな友情を軽やかに描いたこの作品は、2009年に至るまでスペシャル版と時代劇版を含む全22作品が製作された人気シリーズです。

【撮影の思い出】
シリーズ全作品の現場に参加した唯一のスタッフである岩田均さんに、撮影当時のお話を伺いました。
岩田さんのプロフィールは、コチラ
https://www.shochiku.co.jp/cinema/history/interview/vol-4/

【今回の作品】
映画『釣りバカ日誌7』
1994年12月23日公開。 同時上映『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』


- この作品から、みち子さん役が、浅田美代子さんに代わられました。
原作のやまさき十三先生、北見けんいち先生は、「マンガのみち子さんのイメージに、浅田さんは近いなあ!」と仰っていました。今回の、「ハマちゃんとスーさんが仲違いをする」というお話の中に、浅田さん演じる明るくて優しく可愛い奥さんがいてくれると、ホッとしますよね。

- 浜崎家のシーンも自然な感じですよね。
石田さん演じるみち子さんの、「手のひらの上にハマちゃんを乗せて自由にさせていた感じ」とは、また別の魅力のみち子さんが登場したことで、新しい風が吹きました。伝助とみち子さんの夫婦のやりとりも、初々しくなりましたしね。

- お馴染みの皆さんの中にお一人入られるのは、大変なことですよね。
西田さん三國さん中本さんが繰り広げる浜崎家のシーンは、絶妙なアンサンブルで人気のシーンですが、その撮影にも、スッと馴染まれていました。鯉太郎役の上野友君のことも、とても可愛がって下さっていて、あっという間に仲良しになりました。

浜崎家での楽しいひととき

- 一方で、戸川純さん演じる鈴木建設の営業三課の恵さんが寿退社となりました。
谷さん演じる佐々木課長とハマちゃんが中心になる営業三課のシーンですが、恵さんがいることで、更に活き活きと華やかになって、人気シリーズに成長していく為に大きく貢献して下さったお一人ですよね。受けの芝居の見事さなど、コメディエンヌとして天才的な方ですから、いなくなるのは、本当に残念でした。

- 作品中でも、ハマちゃんが退職を惜しんでいますね。
事情がある場合は別として、今は、結婚して退職する女性は少ないと思いますが、この頃は「寿退社」の割合が、まだ多かったんです。時代を反映したセリフになっていると思います。

- 『釣りバカ』は、普通の暮らしが舞台なので、シリーズを観返していると、日本人の生活が変化していく過程を観ていることにもなりますね。
スタッフとしての自分は、普通に一生懸命、映画を作ってきただけですが、長く作られたシリーズ物には、そういう側面があるのかもしれませんね。

- 主人公としてのハマちゃんが愛されたのも、時代の流れに合っていたかもしれませんね。
当時、特にハマちゃんの生き方を「羨ましい」と感じるサラリーマンの方が多かった様に思います。ハマちゃんの仕事と家庭のバランスや、優先順位が絶妙だったのではないでしょうか。

社長室でねぎらわれる営業三課の恵さん

- この作品のロケは、福井県ですね。
今回も熱心に御協力頂きました。「越前大仏」や日向湖の水路にかかっている太鼓橋と言った名所はもちろん、鯖江の「サンドーム」(現サンドーム福井)の建設現場も撮影させて頂きました。翌年の体操の世界選手権がこけら落としで、完成前ですから、普通は部外者が入ることが出来ません。「スーさんが視察に来る」という設定ということで、協力して頂きました。建物の完成前の光景ですから、当然、今や、この映画でしか見られません。建設会社が舞台となっている作品ならではですよね。

- 釣りのシーンはどちらで撮影されているのですか。
東尋坊です。今回のゲストである名取さん演じる彩子とハマちゃんスーさんが磯釣りをしています。岩肌が荒々しく、国の名勝天然記念物になるくらい素晴らしい景色なのですが、撮影には、波が荒くて、向いていないところです。

- そうですね。作品を観ていても波が荒いし、足元は完全に岩ですね。
それに加えて高低差がキツい。お天気は良かったのですが、大きな波が来ると撮影現場の岩場は簡単に、波をかぶって覆われてしまいます。

- 波はコントロールできないですよね。
製作部の若手が一人、斜面の一番上に立って、沖を眺めて波の数を数えて、何回目に大波が来るのか、皆に知らせる様にしました。波が来そうになったら、撮影現場近くにいる製作部にトランシーバーで「あと何回目で波が来ます!」と知らせると、それを聞いて全員退避するのです。逃げる先も岩の上の狭い場所なので、皆、必死です。撮影スタッフは重い機材を抱えていますし。

- ちゃんと予測が当たるのですか。
もちろん、当たらない時もたくさんあります。波をかぶると、全身ずぶ濡れになりますが、「機材だけは守れ!」とゲキを飛ばしました。なので「逃げたけど波が来ない」となると、重い機材を戻す無駄な苦労が増えるので、波を避けられたとしても、文句が出るわけです。

- 波の予測をする担当の方は、大変ですね!
いくら数えたって当たらないですよね。アハハハハ!担当の彼は、スタッフにいじられて、散々な目にあっていたと思います。役者さんを含めて、危険にさらされながらの状況で、皆、必死だったとはいえ、彼はちょっと、かわいそうだったかな?まあ、修行ですね。

- たしかに!
現場は過酷だったのですが、ロケの実行委員会の方々の御配慮で、芦原温泉に泊めて頂き、夕食では、全員越前ガニを御馳走になりました。ちゃんと、後で良いことが待っていたのです。何より、シーン自体が、迫力ある良い画になりましたから!

この陰には、製作部の青年の奮闘が…。

- 珍しく、宴会のシーンが浜崎家で行われていますね。
西田さんからポルトガルの民謡「ファド」を歌いたい、というご提案がありました。人生や運命がテーマになるちょっと、哀感もある感じの曲調です。「ファドの女王」と言われたアマリア・ロドリゲスという有名な歌手を参考に、西田さんがアドリブで歌っています。

- それで、金髪のカツラなんですね。
いつものように、担当の助監督さん美術部さん装飾部さんが、総出で考えて準備したのですが、その中で「羽田の歌姫 アマダイ・ロッドリゲス」という名前も考えたんですよ。さらに、西田さんが前日に、急遽御願いして、親友の松崎しげるさんも、即興のギターで参加して下さいました。そのおかげで、派手なシーンになったと思います!

羽田の歌姫 アマダイ・ロッドリゲス

- 今回のスーさんは、歯が痛かったり、ウソをついてしまったり、人間味がありますね
くり返しになりますが、三國さんは本当に、一度として同じキャラクターだったことはなくて、同じ人物の中で、いろいろな部分に光を当てて表現なさっているんだと思います。
今回は、最初、ちょっとくたびれた感じかな、と思いきや、彩子さんとのやり取りは、ちょっと色っぽいですよね。イヤ、ハマちゃんのセリフで言えば「色ボケジジィ!」かな。単純な人物造詣じゃなく、奥行きが深くて、惹きつけられますよね。

- ハマちゃんにFAXをたくさん送ってしまうシーンは、ちょっと、かわいいです。
FAXが連続送信されてくるシーンは、大船撮影所のセットでの撮影でした。
「芝居に合わせて良いタイミングで出てこなくてはならない」ので、撮影所にあった事務室のFAXから、演出部さんの一人が、トランシーバーの合図に従って、タイミングを合わせて送信しています。

- 東尋坊と違って、コントロールできますね。
そう。この時は、波の数を数えなくて良いですからね。スムーズに進みました!

出来心のウソで大変なことに…。

〈その8に続く〉

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商品 (DVD・DVD―BOX)
https://www.shochiku-home-enta.com/c/series-turibakanisshi

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