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「晩春」デジタル修復レポート第三回【国際タッグ】

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 「晩春」の修復を手掛ける米ニューヨークのシネリック社は1982年創業で、ジョン・フォード監督の「怒りの葡萄」(1940)や「わが谷は緑なりき」(1941)、ユル・ブリンナーとデボラ・カー共演のミュージカル「王様と私」(1954)、エリア・カザン監督の「波止場』(1954)などを手がけてきた世界的な修復会社である。
 ほかにも、ソニーとタッグを組み、世界初の4Kの高画質復元にも挑戦。モノクロでは、スタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情」(1964)、レニ・リーフェンシュタール監督が1936年のベルリン五輪を撮ったドキュメンタリー「オリンピア」2部作、ポール・ニューマン主演の「ハスラー」も行っているが、日本映画の修復は初めてだ。
 そのアジア代表を08年3月から務めるのは、エリック・ニアリ。西島秀俊主演、アミール・ナデリ監督の「CUT」(2011)、リリー・フランキー主演の「シェル・コレクター」(来年2月公開)のプロデューサーも務めている。
 きっかけは3年前、ある国際映画祭での松竹プロデューサーとの出会いだった。ニアリは言う。「日本には、黒澤明、溝口健二、成瀬巳喜男といった大監督がいます。例えば、黒澤さんはジョン・フォードにも影響を受けていて、編集力とか技術や世界観が素晴らしいのですが、小津さんの場合は、ローアングルやカットの切り返しなど独特のスタイルを持っています」
 修復は特殊な機械で、1コマごとに4Kの高画質でスキャニングすることから始まる。35ミリフィルムはデジタルでいえば、4Kの画質に相当すると言われている。映画は1秒24コマで、1時間48分の「晩春」では約 15万5000コマの画像を取り込むことになる。また、フィルムの状態によっては、上下バラバラにスキャンしたものを組み合わせることもある。
 この取り込んだ画像を、さらに専門ソフトを使って、傷や埃を除去し、 DCP(デジタル・シネマ・パッケージ)と呼ばれる上映素材を作り、イマジカにて最終的な修復の仕上げを行った。「画も当然ながら、音がきちんと聞こえるようになったのは大きい。この復元はイマジカさんのおかげです」(監修者・近森)という。(注)音の修復は、米オーディメカニクスと松竹映像センターで行った。
 こうして、1949年の公開当時の美しさを完全に取り戻した「晩春」。完成品を目にした小津の遺族も「私と同じ年に誕生した伯父の映画がこんなに綺麗に見られるとは驚きです」と感激した面持ちだった。(敬称略)=終わり=

「晩春」デジタル修復版は、「東京物語」、「秋刀魚の味」のデジタル修復版とともに『松竹120周年祭』で11月21日(土)~27(金)に東京の東劇にて上映。

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http://www.shochiku.co.jp/120festival/