「晩春」デジタル修復レポート第一回【プロジェクト始動】
カテゴリ:デジタル修復
小津安二郎監督(1903〜63)の名作「晩春」(1949)がデジタル修整され、9月某日、東京・五反田のイマジカ試写室で初号試写が行われた。会場には、クラウドファンディングの支援者を含め関係者30人近くが集まり、終映後は盛大な拍手に包まれた。オリジナルネガが現存せず、後年作られたネガや上映用フィルムも、キズや縮み等の問題が多く、状態が良いと言えなかった「晩春」がいかに現代に蘇ったか?その足跡を追う。
小津作品はこれまで「東京物語」(1953)、「彼岸花」(1958)、「お早よう」(1959)、「秋日和」(1960)、「秋刀魚の味」(1962)がデジタル修整されてきた。カラー4作品は小津の生誕110年と没後50年を記念したもので、日本映画が世界に誇る小津作品を後世に残そうというものだった。
「東京物語」は2013年のベルリン国際映画祭で、「秋刀魚の味」は2013年のカンヌ国際映画祭、「彼岸花」は2013年のベネチア国際映画祭、「秋日和」は2014年のベルリン国際映画祭、「お早よう」は2014年の香港映画祭のクラシック部門でワールドプレミア上映されている。
フィルムは一度劣化し始めると、それを止めるのは難しい。また、1950年代、60年代の映画全盛期に、実際に作品に携わった撮影スタッフに修復の監修してもらうためには一刻も早く取り掛かる必要があった。
「晩春」修復プロジェクトが本格始動したのは2013年夏だった。これまで「東京物語」と小津のカラー作品4本を手がけてきた松竹映像センターの五十嵐真が言う。「次は『晩春』をやろう」というのはクラシック作品に携わってきた関係者の共通した思いでした」
「晩春」は妻を亡くし、鎌倉で暮らす大学教授とその一人娘の愛情を描いた傑作で、原節子が初めて小津映画に出演した記念すべき作品だ。キネマ旬報第1位、第4回毎日映画コンクール日本映画大賞を受賞している。 その監修には、当時撮影助手であった川又昂撮影監督とその川又に師事し、現在、山田洋次監督作品の「母と暮らせば」(12月12日公開)では撮影監督を務めた近森眞史が行った。
近森が言う。「まずは綺麗な原盤を探そうというところから始まりました。今でこそ、小津作品は世界の宝のように言われていますが、松竹に限らず、当時の映画界は、映画を後世に残そうという意識はなかったんです」
「晩春」のオリジナル・フィルムは存在しない。当時のフィルムは可燃性で、その後、法律によって保管が禁じられたことから、破棄されている。原盤となったのは、神奈川県内の倉庫などから見つかった2本だった。原盤から1973年にコピーされたマスターポジ、さらにそれからコピーされた1本。そのフィルムを見た近森はあまりの状態に愕然とした。(敬称略)
「晩春」デジタル修復版は、「東京物語」、「秋刀魚の味」のデジタル修復版とともに『松竹120周年祭』で11月21日(土)~27(金)に東京の東劇にて上映。