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小津安二郎生誕120年 連載コラム「わたしのOZU」第1回
「10代の頃に観た小津作品」―『浮草物語』 映画監督 パン・ナリン

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日本の人と心を独自の作風のなかに捉え続けた小津安二郎監督は、2023年12月12日に生誕120年を迎えます。「永遠に通じるものこそ常に新しい」の言葉通り小津作品は、今も常に観るものの心に新しい刺激や感動を与え続け、国内外の多くのファンから熱い支持を受けています。

この度、生誕120年を記念して、各界でご活躍されている著名人の方々にお好きな小津作品を1本選んでいただき、お好みのテーマを切り口とした作品紹介コメントいただく企画がスタートしました。

第一回は、映画監督 パン・ナリンさんの作品紹介です。

パン・ナリン

インド共和国・グジャラート州出身。ヴァドーダラーのザ・マハラジャ・サヤジラオ大学で美術を学び、アーメダーバードにあるナショナル・インスティテュート・オブ・デザインでデザインを学んだ。初の長編映画『性の曼荼羅』(01)がアメリカン・フィルム・インスティテュートのAFI Festと、サンタ・バーバラ国際映画祭で審査員賞を受賞、メルボルン国際映画祭で“最も人気の長編映画”に選ばれるなど、30を超える賞を受賞し、一躍国際的な映画監督となった。BBC、ディスカバリー、カナル・プラスなどのTV局でドキュメンタリー映画も制作しており、“Faith Connections”(13・原題)はトロント国際映画祭の公式出品作品として選ばれ、ロサンゼルス インド映画祭で観客賞を受賞した。2022年にグジャラート州出身の映画監督として初めて映画芸術科学アカデミーに加入。他の代表作に『花の谷 -時空のエロス-』(05)、『怒れる女神たち』(15)などがある。


「10代の頃に観た小津作品」―『浮草物語』

 一番の思い出は何と言っても、インドを離れる前の10代の頃に映画クラブで観た小津映画ですね。小津監督のとにかく詩的で革新的な映画言語に圧倒されたのを覚えています。禅的にも感じましたし、今もそう感じます。当時もたくさんの映画を観ていましたが、小津監督の映画ほど日本的に感じる作品はなかったように思います。
 数ある映画の中でも特に好きだったのは、『浮草物語』(サイレント版)ですね。音がない分、よりインパクトがあったのかもしれませんが、登場人物や女性の描き方、人間関係など、他の小津作品と同様にではありますが、普遍的で共感できるものがありました。日本にも西洋にも行ったことがなかったのに、まるで自分の物語のように感じたのです。

 小津監督はまた、男性と女性、父と息子、家族、小さな子供たちの関係を掘り下げることが多かったですが、これらの登場人物はすべて、監督の有名な(海外では通称「タタミ・ショット」と呼ばれる)ローアングルでの撮影を含めた、秀逸な撮影、多様な編集スタイルによって、美しく、思索的な形で描かれています。若きフィルムメーカーだった自分にとって、これらすべてが大きなインスピレーションとなりましたし、自分の歩くべき映画的な道のりについても考えさせられました。日本の物語に日本的な装いと装飾を施した小津監督の作品を観て、自分の映画ではインドで何ができるだろうかと考えたのです。
 小津監督は大きなインスピレーションの源であり、これからもそうあり続けるでしょう。監督の映画は観る度にたくさんの層を発見することができます。特に日本を訪れた後は(表立っていない)二番目の層がよく見えてきました。更に、日本の歴史を知り、小津監督が戦争で戦ったことを知ると、監督が自身の人生からインスピレーションを受けた要素を見つけることもできる。小津安二郎監督の深遠な作品は、表面的に美しく、とても静かな水面のようですが、ひとたびその深みに足を踏み入れると、どこまでも果てしない。そこがまた美しいのだと思います。

パン・ナリン



『浮草物語』
原作:ジェームス槇
脚本:池田忠雄
監督:小津安二郎
出演: 坂本武 飯田蝶子 三井秀男 八雲理惠子(惠美子) 坪内美子 突貫小僧 谷麗光 西村青兒 山田長正 青野清 油井宗信 平陽光
製作:1934年

作品詳細:https://www.cinemaclassics.jp/ozu/movie/2902/
配信:https://lnk.to/Ukigusa
DVDのご購入はコチラ:https://www.shochiku-home-enta.com/c/japanese/DB0681


パン・ナリン監督 最新作
『エンドロールのつづき』大ヒット上映中

チャイ売りの少年が映画と出会い、やがて世界で活躍する映画監督になる――。監督自身の驚くべき物語を映画化し、本年度アカデミー賞®国際長編映画賞インド代表に選出!世界中の映画祭で5つの観客賞を受賞し、さらにバリャドリード国際映画祭では最高賞にあたるゴールデンスパイク賞をインド映画として初めて受賞するなど、世界中の映画祭から喝采を浴びた話題作。大きな夢を抱く主人公には3,000人の中から選ばれた新たな才能、バヴィン・ラバリ。そして“映画”への溢れんばかりの愛情を込めて本作を監督したのは、主人公のモデルでもあるパン・ナリン。観客が一体となった映画館、スパイスたっぷりの手料理、陽気な音楽とダンス…どこか懐かしいインドの魅力が満載で贈る、幸せで希望溢れる物語が誕生した。

作品詳細:https://movies.shochiku.co.jp/endroll/


小津安二郎公式WEBサイト:https://www.cinemaclassics.jp/ozu/