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連載コラム「銀幕を舞うコトバたち(25)」
調べるのをやめました。

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 横溝正史が創り上げた「名探偵・金田一耕助」は日本で最も多くの俳優が演じたキャラクターの一人だろう。数えたわけではないけれど、江戸川乱歩の明智小五郎より多いのではないか。映画なら石坂浩二、テレビなら古谷一行を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし映画だけに限っても、石坂浩二以外に片岡千恵蔵、池部良、高倉健、中尾彬、渥美清、三船敏郎、加賀丈史、豊川悦司らそうそうたる俳優が演じている。  作品の数からいえば、一番多いのは片岡千恵蔵の7作品(『三本指の男』、『獄門島』、『獄門島 解明編』、『八ツ墓村』、『悪魔が来りて笛を吹く』、『犬神家の謎 悪魔は踊る』、『三つ首塔』)で、石坂浩二の6作品(『犬神家の一族(1776年)』、『悪魔の手毬唄』、『獄門島』、『女王蜂』、『病院坂の首縊りの家』、『犬神家の一族(2006年)』)を上回っている。 二枚目スターが居並ぶなかにあって異色の金田一耕助と言えそうなのが、1977年公開の『八つ墓村』における渥美清だろう。このキャスティングについて、横溝正史は小説家・小林信彦との対談で興味深い発言をしている。

八つ墓村

 「結局、探偵というものは狂言回しでしょう。主人公は別にいるんですワ。犯人か被害者かどちらか、それが二枚目になるでしょう。二枚目を二人出されちゃ困る。だから金田一、やっぱり汚れ役にしてほしい、松竹(おたく)ならやっぱり渥美清だろうって、ぼく、そう言ったことがあるんですけどね。」(角川書店「野生時代」1975年12月号)  つまり、横溝正史が考える金田一耕助は、石坂浩二や古谷一行タイプではなく、決して二枚目ではない渥美清だったのである。対談相手の小林信彦によれば、渥美清自身はピーター・フォーク演じる刑事コロンボが頭にあったらしい。渥美清もピーター・フォークも、従来の名探偵にはない人間臭さや野暮ったさに妙味がある。

八つ墓村

 ただ、『八つ墓村』は金田一耕助シリーズのなかでも少々毛色の変わった作品で、原作小説は事件に巻き込まれる青年(映画では萩原健一が演じている)の視点で綴られている。金田一耕助の影は薄く、映画化が難しい原作なのだ。だからなのかもしれない。監督・野村芳太郎、脚本・橋本忍のコンビはこの映画を単なる謎解きミステリーではなく、オカルト色の濃い映画に仕上げている。70年代は『エクソシスト』や『オーメン』といったオカルト映画がブームになった時代でもあった。  実際、公開時に観たときはホントに怖かった。さらし首にされても大きく目を見開く落ち武者(夏八木勲)、流行語にもなった「祟りじゃ」の言葉を毒づく老婆、さらに山崎努が頭に懐中電灯を巻きつけ、刀と猟銃で村人32人を惨殺するシーン。着物の裾を乱して猛スピードで走る姿は脳裏から離れない。極めつけは突如、妖女の顔に変身し、すすり泣くような声をもらしながら、鍾乳洞の中、萩原健一を追いかけ回す小川真由美である。複数の鍾乳洞をロケしたという川又昂の撮影が美しいだけに恐怖の度合いは一層増した。

八つ墓村

 しかし、本当に怖いのは村人たちの前で、さらに弁護士事務所に場所を移してする金田一耕助の話である。事件の謎を解き、その背景を説明するのだが、犯人と関係者の家系を遡ることで明らかになるのは理屈を超えた、戦慄の事実である。だから、彼の口から発せられるひと言が重い。

「調べるのをやめました」

 調査すればするほど、犯人の思惑をはるかに超えた祟りや怨念の存在を認めざるを得なくなる恐怖がここにはあり、ちょっと背中をゾクッとさせられる。ぼくが思い出したのは少し前に公開された『ジョーズ』。この映画で一番怖いのも巨大な鮫が人間を襲うシーンではない。ロバート・ショウが語る、巡洋艦が魚雷で沈没した際、海に投げ出された乗組員が救助を待つ間に鮫に襲われ、一人また一人と姿を消していくという話だった。  映画でありながら、映像ではなく、セリフだけで観客に情景を想像させ、ある感情を呼び覚ますという点では、渥美清に勝る役者はいない。メリハリのきいた巧みな語り口や口跡の良さは『男はつらいよ』でおなじみである。この静かで、説得力のある言葉の力が『八つ墓村』には不可欠だったのだ。『八つ墓村』で金田一耕助を演じるのは、やはり渥美清しかいない。

文 米谷紳之介


今年2019年は野村芳太郎監督生誕100周年! 日本映画史上の金字塔「砂の器」をはじめとする松本清張原作の映画化の数々で知られる 野村芳太郎監督(1919年4月23日-2005年4月8日)が、今年生誕100周年を迎えます。 松竹映画で監督してきたその膨大なフィルモグラフィは重厚な社会派あり、スリリングなサスペンスあり、 上質な人間ドラマ、王道の人情喜劇、コント55号作品ありと、多岐のジャンルにわたります。 連載コラム『銀幕を舞うコトバたち』では、メモリアルイヤーを記念して、 松竹の名匠・野村芳太郎の作品群を複数回にわたり取り上げ、その全容に迫っていきます。 神保町シアターで1月19日(土)より開催中の 「こわいはおもしろいホラー!サスペンス!ミステリー!恐怖と幻想のトラウマ劇場」では 本作『八つ墓村』が限定上映されます!ぜひ、この機会にご鑑賞ください。 「こわいはおもしろいホラー!サスペンス!ミステリー!恐怖と幻想のトラウマ劇場」 開催期間:2019年1月19日(土) ~ 2019年2月15日(金) 場所:神保町シアター 特設サイト:http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/mystery3.html
『八つ墓村』 上映日時: ・2月2日(土) 13:15〜 ・2月3日(日) 11:00〜 ・2月4日(月) 16:30〜 ・2月5日(火) 19:15〜 ・2月6日(水) 14:15〜 ・2月7日(木) 12:00〜 ・2月8日(金) 14:15〜  <ラスト> ※上記スケジュールは変更になる場合がございます ※詳しくは神保町シアター公式サイトにてご確認ください 神保町シアター公式サイトはこちら http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/index.html


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