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連載「女ひとり、名画座行ってきます。外伝」
「さくら」しか知らない映画素人30女が見た「女優・倍賞千恵子」特集上映

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 大学生の頃、『SEX AND THE CITY』という海外ドラマが好きすぎて、毎日毎日、セリフを暗記する勢いで観ていました。NY在住のキラキラした未婚女子4人が、恋とセックスに翻弄されるさまを赤裸々に描いた超ヒット作ですが、「倍賞千恵子さんの特集上映について書いてください」と松竹のY田さんからメールをもらったとき、なぜか本作が浮かびました。前置きが長くてすいません。そして、松竹さんとまったく関係なくてすいません!!

 「なんでだろうなあ〜」と口笛を吹きながら考えてたら、わかりました。自分が倍賞千恵子さんを思い出す時、その“声”が最初に聞こえてくるんです。そして『SATC』も、本作のアイコンであるキャリーを思い出すとき、演じるサラ・ジェシカ・パーカーによるモノローグが声で蘇ってくるからなんですね。

 『SATC』未見の方にはなにがなにやらかもしれませんが、とにかく自分にとっての倍賞さんは、声が非常にかわいくて魅力的な女優さんとして思い起こされる存在だってことなんであります。

 なんて偉そうに語っていますが、倍賞さん作品で拝見したことあるもののほとんどが『男はつらいよ』な自分。恥ずかしながらほぼ「さくら」としての倍賞さんしか知りませんでした。

 しかし今回、特集上映に先駆けて何本か観させてもらいまして、改めて声の魅力は間違っていなかったなと確信しました。

女優・倍賞千恵子特集ティザーチラシ

 9月2日から神保町シアターで特集上映が始まる「女優・倍賞千恵子」。約170本(!)にも及ぶ出演作の中から、倍賞さんご本人によるセレクトも含め、選び抜かれた17本がラインナップされています。

 なかでも個人的にオススメしたいのが、デビュー作の『斑女』(61年)と、『私たちの結婚』(62年)です。

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 『斑女』(「はんにょ」と読みます)では、不良少女のキヨミに扮している倍賞さん。惚れた男にガバっと抱きつき、ブッチュっと強引に接吻をかますなど、奥ゆかしいさくらとは正反対のおてんば娘をハツラツと演じていました。

 でもキヨミに不快感や不潔感が一切ないのは、やっぱり倍賞さんの持つ精神の清らかさとかわいらしい声質があってこそ。ラストではダッコちゃん人形を内職しているシーンもあって、時代感もバリバリ。全体的にオサレな雰囲気の作品でもあり、粋な1本でありました。

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 続いては、『私たちの結婚』。タイトルからして鼻息フガフガ、血走った目で拝見しましたが、これはかなり刺さる映画でしたよ…。

 貧しい海苔業者の家庭に生まれ育った美しい姉妹の姉が、「結婚」を前にして愛を取るか、金を取るかという究極の選択を迫られます。

 妹役の倍賞さんは貧乏に嫌気が差して金持ち男に走ろうとする姉に対し、「愛がすべてだよ!」と泣きながら直訴。愛を信じるその曇りのなさに、私の腐ったハートが悲鳴を上げました。

 本作で語られるテーマについてはあと2000字くらい書けそうですが、とにかく倍賞さんは静かに密かに、でも実は誰より強い信念を持った女性を演じるのが似合うなあと痛感。まだふっくらとした横顔もかわいかったです。

 

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 そんな倍賞さんが自身の56年に及ぶキャリアを振り返った著書『倍賞千恵子の現場』(PHP新書)が先日発売されました。

 そのなかで驚いたのが、ご本人を代表する役柄である『男はつらいよ』のさくらさんを演じる時の心境について語ったこんな一節です。 

 さくらさんは特別な人ではありません。個性的でもないし、変わってもいません。だからやっぱり時々ふとしたはずみで、パラパラパラと壊れて消えてしまうような気がして、

「壊れちゃう、壊れちゃう、早く撮ってくれないかな」

 と気持ちがせくこともありました。

(「第4章 普通を演じる」P176-177より抜粋)

 

 26年間、48作品も演じ続けてきた役柄ですら、こんなに繊細で儚い演技の上に成り立っていたのか……と、倍賞さんの真摯な役作りにびっくりしました。

 また倍賞さんは本文中、「さくら」ではなく「さくらさん」と呼ぶんです。こんなところからも、彼女の謙虚さと役へのリスペクトがじんわりと伝わってきました。

 冒頭から「声がいい!」と主張している私。なのでぜひ特集上映で映画を観た後、この本を手にとって欲しいんです。するとあの透き通るような声で語りかけてくれるように、するすると読めるのではないでしょうか。芸術の秋、本書を携えて神保町へGOであります!


文 小泉なつみ

小泉なつみさんの連載「女ひとり、名画座行ってきます。 」で神保町シアターをチェック!
神保町シアターの巻/前編
神保町シアターの巻/後編


倍賞千恵子の現場

女優・倍賞千恵子の自伝、好評発売中!
書籍名:倍賞千恵子の現場
出版社:PHP研究所 発売日:2017年07月14日
税込価格:994円(本体価格920円)
詳細はこちら

 

倍賞千恵子特集

2017年9月2日(土)より、神保町シアターにて特集上映決定!
公式サイト:女優倍賞千恵子 特集上映
上映劇場:神保町シアター