イベントレポート【『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』黒沢清監督、ダニエル・レイム監督登壇トークイベント】
世界的な人気を誇り、今なお愛され続ける映画監督・小津安二郎。
その知られざる素顔と名作の原点に迫る新作ドキュメンタリー映画『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』が、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて大ヒット上映中です。
本作の公開に際し、2026年9月28日(月)に行われた、黒沢清監督とダニエル・レイム監督による公開記念トークイベントの模様をお届けいたします。

小津安二郎の素顔に迫るドキュメンタリー
『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』公開記念トークイベント



■ 「映画の歴史をそのまま2時間で観た」黒沢清監督が本作を絶賛
2026年9月28日、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて本作の先行上映トークイベントが開催され、来日を果たしたダニエル・レイム監督と、本作に出演している黒沢清監督、プロデューサーの町田雪氏が登壇(MC:奥浜レイラ氏)しました。
本作を鑑賞した黒沢監督は開口一番、「小津についての映画であると同時に、白黒サイレントから突然声が出始めるトーキーへ、戦争を経てやがてカラーへと移り変わっていく。映画の歴史そのものを2時間少しで観たかのような感覚になりました。本当に素晴らしい作品です。」と独自の視点で作品の構成を讃えました。
■ 映画監督の視点で語る小津像――『秋刀魚の味』バーのシーンがもたらした共鳴
長編制作のきっかけについて、レイム監督は2003年に初めて観た『秋刀魚の味』の衝撃を挙げ、「2017年に短編を手がけた際、アメリカではアクセスできない貴重な日記やアーカイブに触れ、『これだけの宝物があるなら長編として突き詰めたい』と企画をスタートさせました」と経緯を明かしました。
本作で黒沢監督にインタビューをオファーした理由について、レイム監督は次のように語ります。
「歴史学者ではなく、現場に立つフィルムメーカーの視点で小津監督の内面を語っていただきたかった。黒沢監督が以前語られていた小津監督と山中貞雄監督の関係性についてもお聞きしたかったのです」
黒沢監督は当時のインタビューを振り返り、劇中での自身の使われ方に驚きつつも感謝を述べました。
黒沢監督「2年ほど前にロサンゼルスで1時間半ほどインタビューを受けました。レイム監督が僕よりはるかに詳しく、乗せられてマニア同士のおしゃべりのように夢中で話しました。完成作を観たら『こんなに使われているのか』と照れくさくもありましたが、僕が大好きな『秋刀魚の味』のバーのシーン(軍艦マーチが流れて敬礼する場面)を作品の重要な基調として何度も使ってくださり、深く感銘を受けました」
レイム監督も「黒沢監督がそのシーンを『不気味だった』と表現されたことが強烈に記憶に残り、作品の核になりました」と呼応しました。
■ 夭折の天才・山中貞雄の存在と、小津を演じた“声”の正体
小津が生涯気にかけ続けた盟友・山中貞雄監督(日中戦争にて戦病死)のエピソードについて、黒沢監督は「海外の観客には馴染みが薄い山中貞雄をここまで大きく扱っていることに驚いた」と触れつつ、その意義を語りました。
黒沢監督「小津だって1980年前後までは海外で広く知られていたわけではありませんでした。現存する山中作品は3本しかないので、1日あれば専門家になれる(笑)。このドキュメンタリーが山中作品に触れるきっかけになれば嬉しいですね」
また、劇中で小津の日記を読み上げるナレーションの“声”について、プロデューサーの町田雪氏より、劇団「大人計画」の演出などを手がける大堀光威氏であることが明かされました。
町田プロデューサー「iPhoneに吹き込んでもらったテスト音声を聴いた際、似ているかどうか以上にフィーリングが素晴らしく、依頼を決めました」
レイム監督「大堀さんは依頼当時、小津作品をご存じありませんでした。あえて『小津っぽく』とは注文せず、一人芝居のように人生を語ってほしいとお願いしました。何年も編集を重ねるうち、私自身が大堀さんの声に恋をしてしまいました」
■ 「普通のふりをして全く普通ではない」名優・笠智衆の特異性
話題は小津映画に欠かせない名優・笠智衆の演技論へと発展。黒沢監督は笠智衆という存在の異様さについて語りました。
黒沢監督「笠智衆さんは相当変わった俳優です。『これが普通です』という顔をして演技をされるのですが、どこもかしこも全く普通ではない。日本人でも初めて小津映画の笠さんを観ると、それまでの俳優の概念が壊されるような異様なインパクトを受けます。アメリカの方にはどう映るのでしょうか」
レイム監督が「アメリカでも素晴らしい俳優として評価されています。ヴィム・ヴェンダース監督の『東京画』で自然体に話す姿を見て以来大ファンです」と答えると、黒沢監督は小津映画における演出の難しさを次のように分析しました。
黒沢監督 「笠さんはロボットのように無表情に徹しているわけでもない。だからこそ真似ができないんです。映画の作り手は誰もが一度は笠智衆のように俳優を動かそうとしますが、絶対に失敗する。ヴェンダースもツァイ・ミンリャンもダルデンヌ兄弟も、小津を深く敬愛しながら、決してスタイルや笠智衆の演技を真似しようとはしない。そこに小津の凄みと、作り手が決して侵してはならない領域があるのだと思います」
■ 国境を越える「後味」の魅力――初心者へのおすすめ作品
最後に、小津映画が世界で愛される理由について、レイム監督は小津自身の言葉を引用しながら語りました。
レイム監督 「ロサンゼルスで『秋日和』が上映された際、若い世代で満席でした。観客は笑い、ため息をつき、上映後はどこか浮遊したような不思議な表情で劇場を出ていく。小津監督がよく口にされていた言葉にできない『後味』こそが、世界を惹きつける最大の魅力なのだと感じます」
トークの締めくくりとして、これから初めて小津作品を観る観客へのおすすめ作品が紹介されました。
黒沢清監督のおすすめ:佐分利信 主演作(『彼岸花』『お茶漬の味』『戸田家の兄妹』)
「笠智衆主演作はハードルが高いので後回しで(笑)。佐分利信は核心をズバッと突く小気味よさがあり、入り口として最適です。そこを経てから笠智衆作品を観ると、より衝撃を味わえます」
ダニエル・レイム監督のおすすめ:『秋刀魚の味』、紀子三部作、そして『長屋紳士録』
「私自身の原点である『秋刀魚の味』、原節子さんが出演する『晩春』『麦秋』『東京物語』、そして個人的に愛してやまない『長屋紳士録』をぜひ観てほしいです」
『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』は、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて絶賛上映中。
同時開催中の特集上映と併せて、ぜひ劇場の大きなスクリーンで、巨匠が遺した深い眼差しをご体感ください。
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/26_ozudiaries.html
『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』公式サイト
https://movies.shochiku.co.jp/ozudiaries/











