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イベントレポート【映画監督 篠田正浩 レトロスペクティブ シネ・ヌーヴォ篇 上野昂志さんトークイベント】

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2026年9月5日(土)映画『少年時代』上映後のシネ・ヌーヴォのトークイベントに、映画評論家の上野昂志さんが登壇しました。映画の深い解釈や篠田映画について語っていただく中、トークの終盤には主人公・大原武を演じた堀岡裕二さん、そして篠田監督の娘であり現在、表現社の代表を務める細井舞さんがサプライズで登壇し、シネヌーヴォ代表の景山理さんを交えて、撮影当時の貴重な裏話やレトロスぺクティブ上映への想いなどが語られました。

篠田作品の多彩さと『少年時代』に描かれた“子供たちの政治学”

上野昻志さん(以下、上野): 篠田正浩監督は1960年代、大島渚さんや吉田喜重さんらとともに「松竹ヌーベルバーグ」の旗手として評価されました。しかし、他の監督と比べても篠田さんの作品は非常に多彩で多様です。今回上映される5本をとっても、題材やテーマ、表現が一本一本まったく違います。

今回上映された『少年時代』の原作は柏原兵三さんの小説『長い道』です。柏原さんご自身が疎開先でいじめを受けた体験を綴ったもので、それを読んだ漫画家の藤子不二雄Ⓐ(安孫子素雄)さんがご自身の体験と重ね合わせて膨らませ、漫画化したのが『少年時代』でした。柏原さん、藤子さん、そして篠田監督はほぼ同世代(昭和6年前後生まれ)。藤子さんは「これが映画になったらいいな」と思いながら描かれており、映画化の際は企画としても参加されています。

映画の中で描かれるのは、昭和19年から20年の敗戦までの田舎町です。ラストで母親が「田舎でおっとり育ってよかった」と言いますが、実際の子供社会は決して穏やかなだけではありません。クラスには完全な「力の支配」が存在していました。

その中心にいるのが、堀岡裕二さん演じる大原武です。武は腕力も知力もあり、一人前の働きをしながらクラスを命令一下で動かしています。それに対し、東京から来た進二は革靴を履き、異質な存在として現れます。個人としては進二の本や知性に魅かれ、親しみを感じて救おうともする武ですが、集団の前では支配者として振る舞わなければならない。二人の間には、明確に意識されない複雑な関係性がありました。

しかし、裕福な家の須藤という少年が武の天下をひっくり返そうと動き出し、進二もそこに巻き込まれていきます。ここにあるのは、単なる美しい子供の世界ではなく、力の転換や思惑が絡み合う、ある種の政治性や心理劇です。

また映像美も素晴らしく、校舎のまっすぐ伸びる廊下や、電信柱が並ぶ一本道の遠近感、そして去っていく進二を自然に離れたまま見送る武のラストシーンなど、空間の捉え方が見事でした。

 

36年ぶりに語られる撮影秘話!「武」を演じた堀岡裕二さんが登壇

景山理さん(以下、景山): ありがとうございました。さて、本上映会は表現社さんとシネ・ヌーヴォの共催ですが、ラストシーンで手を挙げて立っていた「大原武くん」こと、堀岡裕二さんが本日来てくださっています!公開から36年ぶりのご登壇です。

堀岡裕二さん(以下、堀岡): 大原役をやっておりました堀岡と申します。(会場から大きな拍手)

景山: 現在も役者をされているのですか?

堀岡: いえ、もともと役者とはまったく関係のないところで篠田監督に声をかけていただき、出演しました。その後、少し作品やCMに出たりもしたのですが、名前が知られてくると「静かに暮らしたい」という気持ちが芽生えて、2年ほどでやめてしまいました。

上野: 今日お目にかかった時、目元が全く「武」そのままだと思いましたよ。素晴らしい存在感でしたが、当時、監督からはどのような指示があったのですか?

堀岡: 監督が大人の役者さんや子役に対して怒ったりすることはほとんどなく、「どんどん個性を引き出してくれる」というスタンスの方でした。

上野: 演技の経験がないところから、どのように撮影に入られたのでしょう。

堀岡: まったくの素人だったので、劇団ひまわりの方が富山に来てくださり、半年ほど演技指導を受けました。台本の読み込みや船に乗る練習、喧嘩のシーンの指導なども、準備に全部で1年ほどかけました。

上野: それは大変でしたね。だからこそ、子供たちが開いている窓を飛び越えて出ていく場面など、動きがとても自然だったのですね。ちなみに、撮影はどこで行われたのですか?

堀岡: 富山の泊(朝日町)周辺を中心に、新潟も含めて1年かけて撮影していました。当時は雪不足で北海道で撮る話もありましたが、結局雪を運んできてかなり大掛かりに撮影していました。

景山: 雪を持ってくるとはすごい撮影ですね。堀岡さんは富山のご出身ですか?

堀岡: 出身は富山の高岡です。今は神戸に住んでいます。

 

AI時代に感じる“人の手触り感”――表現社代表・細井舞さんが語る父・篠田正浩の映画

景山: 続いて、篠田監督と岩下志麻さんの娘さんであり、現在表現社の代表を務めていらっしゃいます細井舞さんからもご挨拶をいただきます。

細井舞さん(以下、細井): 本日は足を運んでいただきありがとうございます。私はこれまで両親の映画の撮影現場に行くようなこともあまりなかったのですが、父が亡くなってからレトロスペクティブで全作品上映のプロジェクトが進み、改めて作品を見る機会を得ています。

今はAIで何でも作れてしまう時代ですが、監督の原体験や頭の中、心の中にあるものをすべてさらけ出し、俳優さん、スタッフの皆様、劇場の皆様など多くの方が力を集結させてようやく世に出ていく――映画とはそういうものだと改めて感じております。旧作に
は、そうした「人の手触り感」のようなものが色濃く残っています。

上野さんのお話にもありましたように、父の作品は非常に多様です。媚びない作風で好き嫌いが分かれるものもありますが、その分、どれかがどなたかの心に引っかかるのではないかと思います。ぜひ他の作品もご覧いただけたら嬉しいです。

景山: ありがとうございます。堀岡さん、今回『少年時代』は何年ぶりにご覧になりましたか?

堀岡: 14年ぶりに観ました。

景山: ご自身のできばえに感激されたのでは?

堀岡: そうですね。なかなか良かったです(笑)。

景山: うちのスタッフも上映後、涙を流しながら出てきました。本日は素晴らしいゲストの皆様、本当にありがとうございました。

 

イベントの最後には7年前に同劇場で行われた篠田監督米寿記念特集上映の際に一度だけ上映された「篠田監督からのビデオメッセージ」が上映されました。真夏の開催だったために予定されていた来阪を断念して、キャメラマンの鈴木達夫さんを招集して撮影されたこだわりの篠田監督からの肉声メッセージにご来場のみなさまも感動。サプライズ満載のトークイベントは温かい空気に包まれる中幕を閉じました。