連載「女ひとり、名画座行ってきます。」
【ラピュタ阿佐ヶ谷の巻/前編】
カテゴリ:連載「女ひとり、名画座行ってきます。」
直感的になじめる場所と、そうでない場所がある。杉並区にある阿佐ヶ谷は、そういう意味で間違いなく前者。
魚屋があって肉屋があって金物屋がある。古本屋があって喫茶店があって、ライブハウスがある。得意を守って商売をしている人たちがゆるゆると繋がっている雰囲気に、なぜか涙が出そうなほど多幸感を覚えます。
そんな都内屈指のあったかスポットにあるのが、「ラピュタ阿佐ヶ谷」さんであります!
有名作より、マイナーな1本を
クラフト感&ネイチャー感あふれる館で日々上映されるのは、「山崎徳次郎の仕事」「高校生無頼控&混血児リカ」特集など、かなりマニアックな旧作邦画たち。そのラインナップを一手に担っているのが、支配人の石井紫(ゆかり)さんです。今年37歳とは思えぬ玄人好みの審美眼、只者ではありません…。
「でも私、映画館で働いたことがないばかりか、きちんと会社に勤めるのもここが初めてなんです。ラピュタ阿佐ヶ谷に入社するまではフリーターでしたが、バイト先がリニューアルに入ってしまって1カ月も無給状態になることがわかり、『これは食っていけないぞ』と慌てて就職先を探して最初に決まったのがラピュタ阿佐ヶ谷だったんです(笑)」(石井支配人。以降「」内、同氏)
でも、もともと映画はお好きだったんですよね。
「ええ。でも入社当時はまだ若いおなごでしたし、ミニシアター全盛期だったこともあって、どちらかというとBunkamuraさんでやっているような映画が好きでした(笑)。なので、本を読んだりお客さんから勉強させてもらったりしながらなんとかやってきた感じです」
お客さんとの距離が近いんですね。
「うちは48席と座席数も少ないですし、入場者の8割が会員さんなので、自然と話しやすい雰囲気になっているのかもしれませんね。
あと不思議な現象で、ラピュタ阿佐ヶ谷で名作といわれるような有名な映画を上映すると、逆にお客さんの入りが悪いんですよ(笑)。上映環境を考えればフィルムセンターやシネマヴェーラ渋谷の方が良いので、どこでも観られる作品をわざわざ阿佐ヶ谷で観る、ということにはならないのでしょう。だからこそ、よその名画座では観られない作品をかけなければと思っています」
「印象深い特集としては、ロマンポルノ特集に若い女性がわんさか詰めかけたこと。おかげで常連のおじさま方はとまどい半分、嬉しさ半分といった感じでした(笑)。ファンシーな建物のなか、昼間の時間帯に上映を行ったことで女性も来やすかったのかもしれません。ほんの10年前までは成人映画に女性が来るなんてありえなかったので、時代の変遷も感じました」
今やラピュタ阿佐ヶ谷の名物特集といった感じですよね。
「でも劇場ができて数年は、『エロ・グロ・暴力』はご法度だったんです」
そうだったんですか!ということで次回は、意外なラピュタ阿佐ヶ谷の変遷と、特集へのこだわりをお聞きしていきます。
杉並区阿佐ヶ谷北2-12-21
03-3336-5440
(取材・文/小泉なつみ)