松竹シネマクラシックス

  1. トップ
  2. 小津安二郎生誕120年 連載コラム「わたしのOZU」第5回「敗戦直後の小津作品」―『長屋紳士録』 デザイナー 長井雅子

小津安二郎生誕120年 連載コラム「わたしのOZU」第5回
「敗戦直後の小津作品」―『長屋紳士録』 デザイナー 長井雅子

カテゴリ:

小津安二郎生誕120年を記念した連載コラム「わたしのOZU」。
各界でご活躍されている著名人の方々にお好きな小津作品を1本選んでいただき、お好みのテーマを切り口とした作品紹介コメントをいただく企画です。

第5回は、デザイナー 長井雅子さんの作品紹介です。

デザイナー 長井雅子

1971年東京都出まれのグラフィック・エディトリアルデザイナー。東京藝術大学卒業。「in C(インシー)」として映画関係を中心に数多くのグラフィックを手掛ける。小津安二郎生誕周年プロジェクト・海外向けポスター・ブルーレイ・DVDほか、『男はつらいよ 全50作ブルーレイ&DVDボックス』ほか『男はつらいよ』50周年プロジェクト、「月イチ歌舞伎」宣伝物など。映画パンフレットに『男はつらいよ お帰り 寅さん』(19)『82年生まれ、キム・ジヨン』(20)『帰らない日曜日』(22)など。書籍は『ねこ22(にゃんにゃん)』(岩合光昭 著/22/ベネッセコーポレーション)『自転車と女たちの世紀──革命は車輪に乗って』 (ハナ・ロス 著/坂本麻里子 翻訳/23/ele-king books) など。


「敗戦直後の小津作品」―『長屋紳士録』

私は自分を表に出せない幼少期を送ったせいか、映画の中で子供たちが子供らしく過ごしているのを観ると、その子たちに憧れてしまいます。それだけでもういい映画だなと思ってしまうのですが、『長屋紳士録』の放屁くんは、何回観ても面白くってかわいくって、子供嫌いだった長屋の大人たちの気持ちを変えていき、この世で最も大切なことに気づかせてくれています。

クスッと笑える人情喜劇と思いきや、反戦への想いまで刻まれているレイヤーの深さ。小津監督の言うところの「人間を描けば社会が出てくる」ということになるのでしょうか。登場人物たちの嘘のない感情の変化に、現代の私たちの気持ちも重なっていき心が温かくなります。76年を経て今なお世界的に評価され、益々輝きを増し続けている理由のひとつは、きっと、その普遍的な感情にあるのですね。大げさかもしれませんが、それは人類の永遠の目標である平和への希望です。

戦争、従軍、検閲など、思うように映画が作れない時期を経た小津監督は、あえて戦前と変わらず長屋に暮らす庶民を描いてみたところ、(想像ですが)こんなに違うものか…同じ人間を描いただけなのに…とびっくりしたのかもしれません。徹底的に破壊された瓦礫の山、街に溢れる行き場をなくした戦争孤児たち、戦争で全てを失った登場人物たち…楽しいお話の中に敗戦の悲哀が強烈に突き刺さります。どうにかして助け合って生きていかなければいけない状況で必要だったものは、戦前の作品群の中にすでにありました。妥協なく細部にまでその真価と美意識を問い続けていく小津監督。そのレイヤーの深い表現は『東京物語』などの小津調を確立する上で既に手応えを感じているような秀逸さです。「よしこれだ!」の声が聞こえてきそう!(想像です)

観終わった後の、この温かい気持ちを私たち一人ひとりが大切にしていければ、この世から戦争なんてスッと無くなってしまうのではないかと信じさせてくれる作品です。

長井 雅子


『長屋紳士録』
監督:小津安二郎
脚本:池田忠雄、小津安二郎
出演:飯田蝶子、青木放屁、小澤榮太郎、吉川満子、河村黎吉、三村秀子、笠智衆、坂本武
製作:1947年
作品詳細:https://www.cinemaclassics.jp/ozu/movie/2869/
配信:https://lnk.to/NagayaS
DVDのご購入はコチラ


第76回カンヌ国際映画祭クラシック部門『長屋紳士録』4Kデジタル修復版ワールドプレミア上映!

第76回カンヌ国際映画祭クラシック部門での『長屋紳士録』4Kデジタル修復版ワールドプレミア上映に合わせ、長井さんに海外向けポスターをデザインしていただきました。長屋の和やかな雰囲気をイメージしたポスターは、ワールドプレミア上映でも大好評。ヴィム・ヴェンダース監督をはじめ、多くのお客様から称賛をいただきました。

ワールドプレミア上映の詳細はこちら
https://www.cinemaclassics.jp/news/3310/


小津安二郎公式WEBサイトhttps://www.cinemaclassics.jp/ozu/