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連載コラム「OZU活のすすめ」第1回

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初めまして。昭和の日本映画が大好きなごとうゆうこと申します。特に『父ありき』や『東京物語』等、小津安二郎監督の映画をこよなく愛しています。2年程前から【OZU活】と称して、小津映画のロケ地、小津監督が訪れた場所やお気に入りだったお店等を巡り、SNSで発信しています。
この度、松竹シネマクラシックスでコラムを連載させていただくことになりました。これから皆様に小津監督ゆかりのスポットを沢山ご紹介できたらと思っています。

まずは、私が【OZU活】を始めたきっかけをお話させてください。

三重県伊勢市にある、私の母校の校門です。随分古びた石の門ですが、実は小津監督が通った三重県立宇治山田中学校の校門なんです。

こちらは大正10年2月14日、宇治山田中学校の校門前で、卒業を前に運動部の生徒達を撮影した写真です。
一番右端に写っている柔道着姿の少年が中学5年生の小津監督。中学時代は柔道部に所属して活躍しました。生徒達の後ろには校門も写っています。

     ※「宇治山田高等学校九十年史」より

御影石の校門には4本の石柱が使われていました。宇治山田中学校の校舎は、昭和20年7月29日空襲で消失しましたが、校門は焼け残りました。
戦災を免れた4本の石柱は,伊勢市内の2つの高校へ1対ずつ引き継がれ、現在も大切に保存されています。

高校生の頃は、まさか小津監督の母校の校門を潜って毎日通学しているなんて夢にも思いませんでした。このことを知ったのは卒業後、随分時を経てからです。小津監督の映画を観るようになり、作品好きが高じて監督自身のことを調べるようになりました。すると、小津監督が中学時代に訪れた場所やお店は、伊勢で育った私にとって、幼い頃から馴染みのある場所ばかりではありませんか!世界的に有名な小津監督も、中学生の頃は普通の学生と同じように、伊勢の町で買い食いしたり、本屋さんに通ったりしていたことを知り、小津監督をとても身近に感じました。そして小津監督の人生において中学時代は特別なものであり、数々の作品に青春時代の思い出が反映されていることや、中学時代の旧友達との友情を終生大切にされていたことを知りました。
地元を離れて長い私ですが、幼い頃から知る伊勢の町を、小津監督の思い出の場所という視点で改めて訪れてみたいという思いが強くなりました。これが小津スポットを回り始めたきっかけです。

長々と自分について語ってしまいましたが、ここで改めて小津監督が宇治山田中学校に入学するまでの生い立ちをまとめてみました。

映画監督小津安二郎は、明治36年、東京の深川で生まれました。生家は湯浅屋という肥料問屋の分家で、代々湯浅屋の支配人を勤める家系でした。小学校3年生を修了した大正2年3月、子ども達を環境の良い田舎で育てたいという父の希望で、一家は父の生まれ故郷である三重県飯南郡神戸村垣鼻(現松阪市愛宕町)に移住しました。母子は松阪で暮らし、父は湯浅屋経営の仕事がある為、東京と松阪を往復するという暮らしを送りました。
大正5年、松阪町立第二尋常小学校を卒業した小津監督は、三重県宇治山田市(現伊勢市)にあった三重県立第四中学校(在学中に宇治山田中学校と改称)に入学し、寄宿舎に入りました。

     ※「宇治山田高等学校九十年史」より

小津監督が通った宇治山田中学校は、伊勢市船江にありました。現在は住宅地となっていますが、当時は田畑に囲まれた大変長閑な環境でした。校舎の北東に2棟並んでいる2階建の建物が小津監督が暮らした寄宿舎です。
当時の宇治山田中学校は規律の厳しい学校でした。特に寄宿舎生活は舎監の先生や上級生の目があり、窮屈なこともあったと思いますが、遠足や短艇競漕会、潮干狩り、兎狩りなど楽しそうな学校行事も盛り沢山。小津監督が記した日記からは、中学生活を大いに楽しんでいる様子が伝わってきます。

     ※「宇治山田高等学校九十年史」より
昭和17年の卒業アルバムに掲載された寄宿舎生活の様子。生徒達が机を囲んで自習をしています。寄宿舎は室長が5年生、副室長が4年生。20畳程の部屋に1年生〜5年生の生徒達が共に生活していました。

昭和17年公開『父ありき』より。主人公の良平が、中学校の寄宿舎で自習をしているところに父親が訪ねてくる場面です。廊下に面した窓や壁際の荷物入れ、机の配置など、宇治山田中学校の寄宿舎にとてもよく似ています。小津監督は自身の中学生時代の多くの思い出をこの作品に反映させています。『父ありき』は小津監督が38歳の時に公開された映画ですが、寄宿舎生活は小津監督の記憶に鮮やかに残っていたのではないでしょうか。

次回からは【OZU活 伊勢編】と題して、伊勢の町に残る小津監督ゆかりのスポットをご案内します。このコラムを通じて小津監督の映画やゆかりの地巡りに興味を持っていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
皆様どうぞよろしくお願いします。

文 ごとうゆうこ


『父ありき』作品ページはこちら https://www.cinemaclassics.jp/ozu/movie/2884/
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